優しい君だから(2)
「ねぇ、イオさん見なかった?」
シュリはさっきから、このセリフを散々くり返しているような気がする。
そして返ってくる返事も、知らない、だとか、見てない、という言葉ばかりである。
あれからかなり時間が経つ。
もうこの城から出て行ってしまったのだろうか。
「どうしてそんなにイオ様を捜しているんですか?」
今、先ほど質問をしていたフッチに逆に質問をされてしまった。
「うん、僕はイオさんにあやまらないといけないんだ。さっき、とてもひどいことを言ってしまったから。」
「そうですか・・・」
と言いながら、フッチはシュリの顔を覗き込んだ。
そして。
「でもよかった。シュリさん元気になったんですね。」
と一言。
本当にほっとした顔だった。
フッチと別れてまたイオを捜しながら、考えていた。
自分が本当にバカであったこと。
自分は一人などではなかったのだ。
さっきのフッチもきっととても心配してくれていたのだろう。
フッチだけではない。
誰かとしゃべるたびに、その暖かさが身にしみてわかる。
そのことを気づかせてくれたイオに、自分はあやまらなければならない。
自分はとてもひどいことを言った。
冷徹だなんて。
実の父親を平気で殺しただなんて。
「イオはな、お前よりもつらい思いをしてきたんだ。」
「えっ!?」
イオとルックが出て行ったあと、シュリは、二人から解放軍の頃のことを聞いた。
あのグレミオも一度イオをかばって死んでいること、イオの一番の親友もあの戦いで失ったこと。
そして、父テオのこと。
「で、でもイオさんがお父さんを殺したのは事実なんでしょう?」
「あぁ、確かにな。だがあいつにそうさせたのは、解放軍のリーダーであるという事実だよ。たとえ父親でも、相手は敵。解放軍のリーダーとしてあいつは敵を倒さなきゃならなかったんだ。本当のあいつは冷徹なんかじゃない。誰よりも心の優しい人間なんだ。」
きっと軍主になるには優しすぎるほどにな。
と、ビクトールが付け加える。
「じゃあ、何で冷徹だなんて出回ったんですか?みんなだって知ってたんでしょう?」
シュリがそう聞くと、フリックが答える。
「軍主という地位が、あいつをまるで冷徹であるかのように見せていたんだよ。」
「どういうことですか?」
「軍主である以上、個人的な感情を見せてはいけないと、イオはどんな事が起こっても表情に出さなくなったんだよ。父親を倒したときもあいつは顔色一つ変えなかった。だから、本当の顔を知らないやつからすれば、イオは冷徹だったんだろう。」
「そんな・・・」
フリックとビクトールは、こんなことも話した。
「イオは、帝国軍と一戦やった後、戦争で死んでいったやつの弔いをしてた。自分のとこの兵士だけじゃなくて、敵だったやつの分までだ。必ずだぞ?心が本当に冷徹なやつにそんな芸当できるわけがねぇ。」
「あいつが何でここまでお前にきつい言葉をかけたと思う?」
「え、なんでだろう・・・」
「イオも、大切な人をなくして、ふさぎこんだ時があった。ちょうど今のお前みたいにな。そしてあいつがちゃんと指揮を取れなかったために兵力を思い切り削る結果になってしまったんだ。それでも解放軍の人間はイオを責めなかった。その時の事を思い出したんだろうよ。だからこそお前には同じ過ちをして欲しくなかったんだと思うぜ?どんな手を使ってでもな。」
フリックがシュリのほうを見ると、呆然となっている。
「僕、本当にイオさんのこと何も知らなかった・・・イオさんは僕の事思って忠告してくれたのに、僕・・あんなひどい事言ってしまった・・・どうしよう・・・」
「自分が本当に悪いことをしちまったと思うなら、ちゃんとあやまればいいのさ。誰だって間違いはある。それをどうするかが肝心なんじゃないのか?」
とビクトール。
「―――僕イオさんにあやまってきます!」
といって、シュリは扉に向かった。
が、ふと立ち止まる。
「そういえば、何であの時ルックがあんなに怒ったんでしょうか?イオさんが怒るならともかく・・・」
その言葉を聞いた二人は、顔を見合わせ、少しあきれたように言った。
「あぁ、ルックはイオに対してだけ態度が違うんだよ。あいつら半分公認の仲みたいなもんだし。」
「イオが感情抑えすぎてまいっちまった事があるんだけどよ、そうなる前に気づいてたのルックだけだったんだぜ?イオが元に戻ったのもルックのおかげだしな。」
「え、え?あのルックが?」
シュリは複雑な気分になりながら部屋を出たのだった。
「イオ?いるわけないだろ。すごく怒ってたみたいだし、もう帰っちゃったんじゃないの?」
「そんなぁ・・・」
ぐったりとうなだれて去っていく後ろ姿を見ながら、少しうんざりした様子でルックは扉を閉めた。
そして
「嘘教えちゃだめじゃないか。」
と笑いをこらえながらの声が聞こえた。
そこには―――イオの姿が。
「いいんだよ。反省してもらわなきゃね。」
ルックはいかにも機嫌の悪そうな顔で言った。
あの後―――
ルックはイオを追いかけた。
「ねぇ、ちょっと待ちなよ!ねぇ!」
しかしイオは止まろうともせずひたすら歩いていく。
あぁ、もう!
とルックは呪文を唱え、イオの前に立つと、イオを抱きかかえるようにして再び呪文を唱える。
一瞬風が巻き起こり、もうその場に二人はいなかった。
二人が着いたのは、ルックの部屋。
イオは相変わらずルックに抱きしめられたままで。
顔を真っ赤にしながら離れようともがく。
しかし、離してもらえない。
「ねぇ、あんなこと言わせといてよかったの?」
「えっ!?」
突然の言葉に、イオはルックを見た。
ルックの顔はなんだか怒っているように見える。
「だから。何であんな事言われて黙ってたのさ?僕が言おうとした時だって君、止めるし。」
「・・・シュリの言ったことは嘘じゃないよ・・・」
「なっ!なに言ってるのさ!そんなバカな事・・・」
「僕が父さんを殺したのは本当の事だもの。まちがってなんかない。僕が冷徹って言われるのは当たり前だよ・・・」
イオの声が―――とてもか細い声が、聞こえる。顔は見えない。うつむき、ルックの胸に顔をうずめたままで話しているから。
そして、肩がかすかに震えているのがわかる。
泣いているのかもしれない・・・
「そんなつらそうな声出すくらいなら、始めから我慢なんかしなきゃいいんだよ。」
一見すればひどい言葉。
だけど、それはルックなりの優しさで。
その証拠にさっきから震えの止まらない体を抱きしめてくれる。
ルックの暖かさが伝わってきて、イオは本当に泣きそうになった。
ぱっと顔をあげて無理やり笑顔を作った。
「もう、大丈夫。ありがとう。」
そう言ったのだが、ルックはイオの顔をじっと見て、はぁ〜とため息をひとつ。
そしてベットに腰掛けると、イオを手招きした。
ルックのよくわからない行動を不思議に思いながらも、イオはルックの言うとおりにする。
すると。
頭の後ろに手を回されて、キスされた。
驚いていると、そのまま頭がルックの胸に移動する。
頭の中は?が渦巻いている。
何がなんだかわからない。
上からルックの声が聞こえてきた。
「今のうちに泣いちゃいなよ。今なら、胸貸してあげるから。」
あぁ、ルックにはお見通しだった。
今自分が本当は全然大丈夫じゃないこと。
―――本当は泣きたかったこと。
涙が流れる。
もう止まってくれそうにない。
「ごめん、ちょっとの間だけ、胸、借りるね・・・」
そうしてイオは、静かに、静かに泣いた。
その間中、ルックはイオの髪をなでてやった。
イオは、誰かに甘えるということをしない。
それはもともとの性格のようだし、解放軍のリーダーになってからはますますひどくなった。
今は、本能が求めていても、頭が言うことを聞かなくなってしまっているのだ。
だから、こっちが察してやらなければ、こっちから働きかけてやらなければならない。
そうしなければイオは壊れてしまう。
いつかそうだったように。
しばらくそうしていて、イオもだいぶ落ち着いたようだ。
「何でルックには何でもわかっちゃうんだろうね。」
くすくす笑いながらイオは言った。
「僕をなめないでもらいたいね。」
その言葉に余計イオは笑っているようだ。
「うるさいよ。」
そうしてルックはきつくイオを抱きしめる。
イオもおとなしく収まっている。
二人の視線が合う。
どちらからともなくキスをして。
そして、そのまま二人がベットに倒れこんだ瞬間――――――
「ルック〜!ルックーー!いないのぉ?」
シュリだ。
あちゃ〜、とイオがルックを見ると・・・
ルックのこめかみに青筋が浮かんでいる気がした。
イオを捜しに来たシュリはルックによって追い返された。
しかしさっきまでの雰囲気は戻るものでもなく・・・
ルックの不機嫌さも戻りそうにない。
しばらく引きつった笑顔を見せていたイオだったが、あっ、と思い出したように口を開く。
「ルック、ありがとね。」
「何が?」
「うん、いろいろと。君がいてくれてよかった。」
そう言ったイオの顔はとてもきれいで―――――
しばらくルックは見入っていた。
そんな顔を見ていると、まあいいかと言う気がしてくる。
そして笑いあった。
その後・・・
やっと見つけたイオに簡単に許してもらったシュリは、心底、イオを尊敬するようになったそうだ。
そしてイオの行くとこ行くとこに出現するようになる。
ルックがシュリに対して態度がきつくなったのは、言うまでもない―――
end
前編←
やっと終わりました〜(汗)
書き始めた当初、こんなにも長くなるとは思ってなかったんですがねぇ・・・
さて、今回のテーマは、どれだけルックはイオのことをわかっているか、だったんですが。
ちゃんと伝わってますでしょうか?
う〜ん、関係ない所ばっかりでかくなっちゃたんですよね・・・
思った程ルク坊じゃなくてすいませんでした。
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