互いの想い










誰もが眠る真夜中――闇の世界。

イオはルカの腕の中でふと目を覚ました。
覚ましてしまった。


雨の音が聞こえたから――。

しとしとと静かに降る雨はいつから降り続けているのだろう。
普通の者が聞けば静かに眠りを誘うこの音色も、イオには逆効果だった。


思い出してしまうのだ―――あの日の事を。


あの人のことを・・・


こうなってしまうともう当分は眠れそうにない。
イオは自分を抱きしめる腕をそっと解き、ベッドから降りた。
その辺りに散らばっていた服を着て、ルカの顔を覗き込む。
ルカは今まで在ったぬくもりが消えたことを感じているようで、表情が少しこわばっていた。
手が何かを探るように動いている。
イオは吹き出しそうになるのをこらえながら、その額に軽く「いってきます」の意味をこめたキスをする。
(君ともこんな風によく一緒に眠ったね・・・テッド)
そんなことを思いながら、イオは寝室を後にした。





イオが部屋を出て少しした頃、ルカは抱きしめていた存在がいなくなっていることに気づいた。
手に残る感触も、ベッドに残されたぬくもりもまだはっきりしている。
それなのに本人がいない。
その事実にルカは恐怖を覚える。
イオがここを出て行くことはない。
それはわかっている。
だがこんなふうに急にいなくなると怖くなるのだ。
何もかもを切り捨ててきた自分が初めて欲しいと思った存在。
その瞳に惹かれ、全てに惚れた。
自分にはないはずであり、必要もないと思っていた「愛しい」という感情。
それをめざめさせた相手、それがイオだった。
何よりも大切なものを手に入れた。
それを失う事が、ルカはとても恐ろしかった。

「僕はずっと君のそばにいるよ。」
イオはそう言った。
しかし人間の感情など不確かなもの。
変わらないなどと言い切れない。
その時ルカは外で降り続ける雨の音に気づいた。
そして、イオがこの部屋を出ていったわけを悟る。
いつか教えてもらった。
雨の音が聞こえるとよく、いや必ず、昔の出来事を思い出してしまうのだと。
そのときのイオの顔は懐かしさと切なさを併せ持ったような表情だったのを覚えている。
ルカは急いで寝室を出た。

自分はいつからこんなに恐怖などというものを感じるようになったのだろうか。
以前の自分からは想像もできないような人間らしい感情が今の自分にはある。
それをおかしいとは思わず、むしろ心地よいとさえ感じているのだ。
あいつの側にいると心が癒される。
手放す気など全くない。手放すことなどできない。
そんな考えをめぐらせながら、ルカはイオを捜した。


イオはテラスにいた。
ずっとそこにいたのか、当然のことながら全身が濡れてしまっている。
だがイオは全く気にしていないようだった。
雨を全身に受けながら、ずっと空を見上げていた。
その瞳が―――あの時のような色をしている。
懐かしさと、切なさと、そして深い悲しみの色。
だが、それだけではなかった。
何かを吹っ切ったようなそんな複雑な色・・・
ルカは後ろから近づき、背中からイオをそっと抱きしめた。
イオの体が一瞬こわばったのがわかった。
だがすぐに体をあずけてきた。
「こんなところで何をしている?・・・また思い出していたのか?」
イオがゆっくりとふりむき、悲しそうな微笑みを浮かべながら答えた。
「・・・うん。やっぱりね、どうしても思い出してしまうんだ。あの日が全ての始まりだったから。あの時、僕が紋章を受け取らなければ、逃げなければ、きっと変わっていたんだろう、とか。そんなことを考えてしまう。そうすれば、テッドは死なずにすんだんじゃないかって・・」
「ふん、そんなことを今言っても仕方がないだろう。過去を振り返ってもむなしくなるだけだ。そんなことを思い出したりするな。」
その'テッド'とやらに想いをはせるイオを見たくなかった。
言ってしまえば嫉妬か。
だからわざとぶっきらぼうに言ったのだが―――


ふと、イオの肩が小刻みに震えているのか伝わる。
言い過ぎてしまったか?
ところが、小さくくすくすと声が聞こえてきた。
よく見ると、笑っているのだ。
「なっ、何を笑うのだ!」
「だって、ルカ、テッドにやきもち妬いてるでしょ?死んでしまった人にやきもち妬いてもしょうがないのに。」

・・・ばれている。
「そ、そんなこ
 「でもありがとう。嬉しいよ。ルカに愛されてるのがわかるし〜」
否定すらさせてもらえず。
イオは、ちょっと意地悪な笑顔を向けていた。
だが、すぐに真剣な表情に変わった。
そして、言葉を紡ぐ。
「―――今まではね、雨の音苦手だったんだ。雨の日は悲しい思い出しかないから。つらかった。雨が降るたびに、この手で死に追いやった人たちのことが思い出されて・・・自分は本当にこれでよかったんだろうかって。自分が死ねばよかったんじゃないかって。」
何ということを言うのか。
死んでしまったら自分とは会えなかったのに。
否定の言葉を言おうとして、イオの手に塞がれてしまった。
「だけど、だけどね。ルカに会って気持ちが変わったんだ。生きていたからこそ、こうやってルカに会えた。多く大切な人を失ってしまったけど、今を頑張って生きようって。ルカと一緒に生きていこうって、そう思えるようになったんだ。―――だから、今日はテッドに報告。やっと君との約束が守れそうだよって、そう言いたかったんだ。」
言い終えて、イオがルカを見上げると――、さっきとはうってかわって上機嫌な顔がそこにあった。いや、表面上はあまり変わっていないが、イオにはわかる。


イオは、自分と出会って変わったと、そう言った。
自分と同じだ。
そして、自分と共に生きると、そう言ったのだ。
ルカは思わず力任せにイオを抱きしめた。そして、激しく口付ける。
「ん・・・ふ・・」
イオもそれに応える。
イオの腕がルカの背中にまわされた。

自分が求められている。

そのことが、とても嬉しい。

ルカはイオの唇を貪った。

永い永い口付け。

お互いの吐息が混ざり合う。

やっと解放されたときには、足の力が抜け、ルカに支えられないと立てないほどだった。
いつもならそこで、イオの機嫌が悪くなるのだが、今日は穏やかな顔で、ルカを見つめてくる。
 そして、少し掠れた声で、祈るように言葉を紡いだ。


「ずっと、ずっと側にいてね。―――好きだよ、ルカ。」

今まで不安だったものが、すっと消えた気がした。
今、確かに手に入れたのだ。
「あぁ、絶対に離さん。離してやるものか。だから・・・ずっと側にいろ。イオ。」
イオは嬉しそうにうなずいた。 
それは、お互いが、お互いを手に入れた瞬間。
しばらくそのまま抱き合っていた――――――

その後、二人2人はイオのくしゃみによって我に返る。
雨の中、ずっと外にでていたのだ。
二人の体はぐっしょりと濡れている。
雨はもうすでにやんでいたが、二人の服は濡れたままだ。
「帰るぞ。」
そう言ってルカはイオの手を握った。
部屋に戻る途中、イオはまだ夜明けの来ない空を見上げ、心の中で呟いた。
(テッド、僕今幸せだよ。だから心配しないで・・・)
空に微笑み、イオもルカの手を握り締めた。




もう夜明けが近づいている――――




続きへ
      〈end〉

どうも、すいませんっっっっ。やっぱ書くのは難しい―(汗)
うひーん、文章変ですねぇ。ストーリーおかしいですねぇ。
無理やり展開持って行ってるから、ものすごく違和感あるよー。
シリアスなはずなんですが、なんかギャグも入ってる気がします・・・
なんかもう自分でもよくわかりません(泣)


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