その手をさしのべて 2










そして、ルックとの遠い距離が当たり前になったころ。
また―――悲しい出来事が起こった。
イオの親友、テッドの死。
ルックはその事実を、城で知ることとなる。
なぜなら、今回の遠征もメンバーに選ばれなかったから。
帰ってきた一行。
いつものように振舞おうとするイオ。
そして、ルックは新しく仲間になったフッチから、事情を聞かされた。





イオが自分を避けるようになったのはいつからだろう。
懸命に笑おうとするイオが、いつももどかしかった。
そして、いつしかイオをかまうようになった。
しかし突然、イオが自分を避け出した。
きっと、人に頼りすぎればリーダーとして問題がでてくるとでも思ったのだろう。
イオの気持ちは分かっていたし、それで彼が頑張れるというのなら別にいいと思っていた。
しかし、イオはいつまでたってもイオのままで。
苦しそうに笑うイオ。
周りのやつらはなぜ、それが分からない?
彼をかまわないと決めたものの、ルックの苛立ちは膨れ上がる一方であった。

やはりイオの気持ちを無視してでも―――


そう考えていたルックに、イオは先手を打った・・・





シークの谷から帰ってきてしばらくたった今、帝国軍との小競り合いが続いている。
そして今回の軍に、ルックの部隊が選ばれたのである。
「この地方の部隊は、ルックに当たってもらうから。」
たった一言で切り捨てられた。
「ちょ・・・待ちなよ。」

「これは軍主命令だよ?」

言われてしまえば抗えるはずもなく。
そしてすぐさま出立の意が伝えられた。
城を離れた船の上で、イオの部屋を見上げる。


嫌な予感を覚えながら。





城の者が寝静まった夜。
「ふう・・・」
イオは屋上にいた。
先程から見上げている空は、吸い込まれるような闇の色で。
背中がぞくりと震えた。


イオは夜になると、よくこの屋上へ来ていた。
城の中ではリーダーとして弱みを見せる事ができない。
自分が少しでも自分らしくいられる場所。
それを探し、たどり着いたのがこの屋上だったわけである。
以前ならば、その役目はルックが果たしてくれていた。
しかし、彼を頼るわけには行かない。
そのためにわざわざ彼を離すように指示したのだから。

「だけど・・・」
夜空を見上げて、自嘲じみた笑みを浮かべる。


「やっぱりつらいや。」



父や、親友の死に対する痛みも。
自分の手を血で染め上げていくつらさも。
全て悟られてはいけない、そう言い聞かせてきた。
虚勢を張って、張り付いた笑みを浮かべて。
時々、あの人の腕に縋りつきたくなった。
その度に彼を触れられないところへやって、自分を騙してきた。

しかし。


しかし、自分の本心は・・・



ヒュゥゥゥウウウ。


「何!?」
突如吹き上げてきた風と共にのる、何かの気配。
このいやな感じ―――これは!
「ずいぶん手薄な警備だこと。」
聞いたことのある・・・いや、忘れることなどできない、この声。
「ウィンディ!!」
とっさに後ろへ下がり、棍を構える。
ぼんやりと、夜の海に浮かぶようにしてウィンディは近づいてきた。
「ふふふ、そんなに警戒しないでおくれ、テオの息子よ。」
出された言葉に、ぴくりと反応するイオ。
「・・・何しに来たんだ。」
ウィンディが口の端を吊り上げた。
「お前を苦しみから解放してやろうと思ってね。」
「!」
「苦しいのだろう?つらいのだろう?軍を統べるのは大変であろう?」
言いながら、徐々に近づいてくる。
それに従い後ろへ下がるイオは、やがて行き場を失ってしまった。
「く、来るな!」
棍を振るうが、ウィンディの体には掠ることすらない。
「ふふふ、邪険にするな。お前を救ってやろうというのだ。」
ウィンディが腕を振るうとそこに暗黒の空間が広がる。
「うわっ!」

降りかかってくる暗黒に、イオはなすすべもなくとらわれていった―――





ひんやりと音のない世界が広がる。
どこかで見たことのあるような、懐かしい風景。
「ここは・・・?」
自分は確かに暗黒にとらわれたと思った。
今自分が立っているのは・・・グレッグミンスター?


「イオ。」
肩に手を置かれ、名前を呼ばれ、はっと後ろを振り返る。
「ど、どうした?」
それは、あの時自分の腕の中で消えていったはずのテッドだった。
「テ・・・ド・・・?」
体を動かせずにいたイオに、テッドは笑う。
「なんだよ。変なイオだな。」
まあいいや、そう言ってテッドはイオの手を引っ張った。
「ちょ、待って。どうして?」
「何がだよ?」
「だって、テッドは・・・もう・・・」
「?おいおい、なんだよー。あんなとこにいて、夢でも見てたのか?」


かまわず手を引かれて、たどり着いたのは自分の生家だった。
「あ、お帰りなさい、坊ちゃん。テッド君もいらっしゃい。」


扉を開けたのは、あの時死んだはずのグレミオで。

「イオ?帰ったのか。」


後ろから顔を出したのは、自分が殺したはずの父・・・



「何で?・・・ど・・・こと・・・なの?」
目の前の光景が到底信じられず、イオは後ずさる。



これは・・・夢?



「坊ちゃん?」
「え?」
グレミオが心配そうにこちらを見つめている。
「どうしたんですか?顔色が優れませんよ?」
「ああ、こいつさっきから変なんだよ。疲れてんじゃない?」
テッドは家の中に入りながらいう。
腕を頭の上で組む動作は、よく見かけた彼のくせだった。



これが・・・本当の世界なの?
とてもつらくて、悲しいことはすべて自分の夢で。



「イオ。」
「父さん?」
大きな手が、自分の頭をわしわしと撫でる。
「元気なのもいいが、遊びすぎて体を壊すんじゃないぞ。」



ああ、そうだ。
父さんはこうやって僕の頭を撫でてくれて・・・

ひどく、心が落ち着く。
そうだね、あんな事現実にあるはずがない。
あんな・・・大切な人を次々と失っていくなんて。



「うん!」
出来るだけ元気に返事を返す。
テオはそんなイオに優しく微笑んだ―――





「くくく。そうさ。甘い、幸せな世界に染まってしまえ。」
ウィンディの前には、膝立ちになり、俯いているイオがいた。
暗黒は、イオの最も望む世界を映し出す鏡。
その幻想に。



イオは確実にとらわれていた―――





to be...

1←

急展開?
相変わらず稚拙な小説で申し訳ないです・・・
連載は思い立った時にきちんと済ませてしまわないとダメですね(苦笑)
久々の更新で、思い出すのに時間がかかりました・・・
くっはー。
この後、イオは助かるのか。ルックはどう動くのか?
その辺りを書けたらいいなと思ってるのですが。
ちゃんと更新したいなあ・・・(遠い目)




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送