その手をさしのべて 1










戦いが続く・・・




多くの命が失われ。


街が焼け野原と化し。



それでも戦うのは己が正義のため・・・



けれど―――


この右手に宿る化け物が力を増すたび・・・




分からなくなる―――――





今やろうとしていることは、本当に正しい?





本拠地―――


解放軍は今、波に乗っていた。
テオ率いる鉄鋼騎馬隊を倒して一週間。
帝国軍最強と言われたテオの軍に勝利したのだ。
解放軍では早くも帝都に乗り込めとの声もあり、軍隊の士気も上がっていた。
そんな中、あくまで冷静な態度で見つめるマッシュは、次に攻めるところを見据えるため、幹部を集め会議を開いていた。
血気盛んな者はこのまま帝都に攻め込むことを提案する。
しかし、もっと土台を固めるべきだと言う声もあがっている。
なかなか一定の方向に話がまとまらず、会議は難航していた。
おかげでテオに勝利してからというもの、ずっと会議続きの日常と化していた。




今日も会議はまとまらないまま、お開きとなった。
イオは、大広間から自分の部屋へ移動する。
今日の仕事はもう済ませたため、後は寝るだけである。
自室へとつながる廊下へさしかかったその時。
「イオ。」
誰かに肩を叩かれる。
はっとして後ろを振り返ると、そこに立っているのは見慣れた少年。
「何?ルック。」
彼は無愛想な少年であった。
少なくとも周りからは生意気だと言われている。
けれどこの少年は、イオにはよく声をかけた。
そして、彼には幾度となくお世話になっている。
自分の従者を失って苦しんでいた時。
彼はそっと肩を貸してくれた。
黙って話も聞いてくれた。
励まされたりしたわけではないが、あの時はあれが一番ありがたかった。
他にも、つらい時には必ず彼が現れて、そっと手を貸してくれた。
ルックがどういうつもりで助けてくれるのかは分からない。
彼は何も言わないから。
けれど、イオにとっては確実に、大切な存在になっていた。

「ちゃんと寝てるわけ?」
あいかわらずそっけない言葉。
でもその中には少なからず心配の色が含まれている。
「ん・・・ちょっと寝不足かな。」
微笑を浮かべてイオは答えた。
すると返ってくるのはため息。
「あのねえ、そういう時は言えって前にも言わなかった?忘れたなんてそんな言い訳は通用しないよ。」
厳しい口調で、彼は続ける。
「君はいつも何も言わないけど、それを見てる身にもなってよね。こっちの方がハラハラするよ。」
またもやため息をつかれる。
そして彼は歩き出した。
自分の部屋の方ではなく、イオの部屋の方向に。
イオは彼の意図がつかめなくて、立ち止まったままだった。
するとルックは、数歩で足を止め、こちらを一瞥すると、顔をしかめながら口を開いた。
「ねえ、寝るんでしょ?早くしなよ。こっちだってヒマじゃないんだ。」
彼がイオの部屋へ向かうのは、イオを寝かしつけるため。
イオはきっとこのまま帰っても、きっと満足に眠れぬまま、朝を迎えるだろう。
ちょっと強引ではあるが、風の紋章を使って眠らそうというのだ。
「あ、ありがとう。」
彼の心遣いを嬉しく思う。
「礼なんていいから、早く。」
彼のそのそっけない態度も、なのに気遣ってくれるところも、すごく愛しい。


けれど。


今の自分は、彼に甘えすぎている。


ベッドの中にもぐりながら、イオは思った。
今もベッドサイドには彼がいる。
きっとイオが眠るのを確認するまでは、ここにいるだろう。




彼が自分の中で大きな存在になりつつある。


それが、恐い。

ルックから離れられなくなってしまう。
もしかしたら、自分の弱さにもつながってしまうかもしれない。
今、自分は強くなければならない。
イオ・マクドールは、解放軍のリーダーだから。
父を自分の手にかけた事を悔やむ時間はない。
ましてや、自分の弱っている姿を皆に見せるわけにはいかない。

父、テオ・マクドールを殺した。
この事実はイオを苦しめていた。
もちろん皆の前ではリーダーとして普通に振舞っている。
けれど、ルックにはどうしても見破られてしまうのだ。
そして立ち上がるための手助けをしてくれる。
ルックの助けは、彼への依存を強くしていった。
今回も、どこかでまたルックが手を差し伸べてくれることを期待していた。
まるで、自分が弱くなってしまったようで。
1人で立ち直ることができなくなってしまったようで。



恐かった。


魔法の力で次第に睡魔が襲ってくる。



――僕は、強くなければ。
 ルックの手を借りなくても立ち上がれるように。
 1人でいても大丈夫なように。

 そう、あらねば。





イオは少しずつ、ルックを避けるようになった。
偵察のパーティなどにも入れないように心がけた。
しばらく大きな戦争はなかったが、戦闘をする時も、自分の部隊とは離れたところに指示を出した。
自分とは別の仕事を言いつけることも多くなった。
マッシュもそれは承知してくれている。





ルックは―――

知っているのか、知らずにいるのか。
イオに聞くこともなく。
そして、二人はあまり話さなくなっていった。





to be...

→2

中身的には序章ですね。
舞台はTのテオ戦〜テッドの死辺りで書いていきます。
今はテオ戦終了後ですが。
そんなに長くはしたくないんですが、私はどんどん話が横にそれていっちゃうんで・・・(汗)
テーマ自体が重いので、かなり暗くなる予定。
坊ちゃんにも、ルックにも、苦しんでもらいますよ〜。
えっと、次辺りからさっそくオリジナル色が濃くなってくるかと思います。
序章読んで、少しでも読む気失せた方。
今のうちに引き返した方が無難かと・・・(笑)




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