ぬくもり










先に行ったシュリたちを追って、イオらは階段を駆け上がっていた。
追いかけてくる敵を倒しながらイオは、右手を押さえた。
先程から右手の化け物が反応している。
それは、イオにとって脅威でしかなかった。

この紋章が鈍く光を放つのは―――

誰かの魂を呼んでいる・・・時。

なんともいえない、嫌な気持ちを抱え、イオはひたすら走る。

何が起ころうとしている?


頼むから。



もう――――嫌だ。





カミューの配下である赤騎士に案内され、次の扉を開ければ回廊であることを知る。
ばたん。
扉を勢いよく開けて、彼らの目に飛び込んできたのは・・・


シュリをかばって倒れるナナミの姿だった。
ナナミの体を、多数の矢が貫く。
衣服が血に染まり。

ナナミは倒れた。





無事、マチルダ騎士団を攻略し、一同はラグナ城へと戻っていた。
そこで、ナナミが手当ての甲斐なく儚くなった事を知る。



それぞれが休む深夜―――


イオは自分の部屋としてあてがわれている部屋には帰らなかった。
足を運んだのは、静寂に包まれる屋上。
城壁に手をかけ、今日の出来事をぼんやりと思い浮かべていた。


あの時。

イオの脳裏に、ある光景が思い出された。
グレッグミンスターで、バルバロッサを倒した後。
イオはフリックにかばわれた。
解放軍の勝利を目の前にして、気が焦っていたのだろう。
自分がしっかりしていれば、彼を傷つけることはなかったのだ。
結果、フリックとビクトールは、落ちゆく城の中で行方不明になってしまった。
3年が過ぎ、彼らがちゃんと生きていたことを知った。
少しは気が楽になったが、やはり心苦しいものはあり・・・
そして今日、色鮮やかに思い出された。
まるで、自分の罪を見せ付けられたような、そんな気にさえなった。
ここでの生活があまりにも穏やかだったため、忘れていた。
いや、忘れた気になっていた。
しかし、右手に宿る罪の証は、今も強く残っている。

・・・何を。

いい気になっていたのだろう。


まだ自分は許されていない。

イオはふっ、と自虐的な笑みを浮かべた。
この城へ招かれて、多くの仲間と再会した。
彼に―――ルックに会った。
解放軍のころから大切な存在だった彼。
彼のそばにいることで、少しずつ心が癒されていくような気がした。


そして、彼のそばにずっといられたらいいと。

そう思うようになった。

けれど。



そう思う事が間違いだったのではないだろうか。
右手の呪いは、ナナミの時でさえ魂を欲した。
きっとまだ完全にソールイーターをコントロールすることはできない。
もし、この呪いがルックの魂を欲したとき・・・どうすればいい?
自分に押さえることができるのか?
ぞくりと、背筋が凍るような気がした。

きっと・・・


きっと、できない。




ならば、いっそのことこのまま離れた方が・・・





「イオ。」
突然の呼びかけに、イオの思考は中断を余儀なくされた。
「・・・ルック?どうし・・・」
「どうしたのは、こっちが聞きたいよ。何でこんなところにいるわけ?」
ゆっくりとした足取りでこちらに向かいながら、ルックは問い掛けた。
イオは答えない。
答えが上手くいえなかった。
難しいことではないけれど。
きっと彼にはわかっているから。
自分がここへ来た理由。
ふう・・・
ルックのため息が聞こえる。
「・・・今日のことだね?」
こくりと頷いた。
ルックではなく、暗闇の方を見つめながら。
「そんなに、それの事が気になる?」
イオの隣へとやってきたルックは、イオの右手に視線を送る。


ほら。
ルックは分かっている。



「やっぱりルックには敵わないよ。」
「君の思考が単純すぎるんじゃないの?」
「ルックってばひどい。」
にこりと、無理やり微笑を作る。
きっと彼には無意味だろうけど。



「で?」
「え?」
「君は何を考えているわけ?」
「え・・・?」
「また変な事考えてるんだろう?君のことだからね。」
「変な事って・・・そんな・・・・・・」
イオの瞳が伏せられた。
ルックの顔を見る事ができないのは、思い当たる節があるからだろう。
「ただ・・・右手の呪いはしっかりと残ってて・・恐いって・・・」
「だから?僕から離れようとでも考えたの?」
「!!」
「その顔見ると大当たりか・・・」
ルックの瞳がイオを捉える。
「ご、ごめ・・・」
「謝ること?」
「ちが・・でも・・・」
どうやら考えている事を当てられたせいで、かなり取り乱しているようだ。
ルックは軽くため息をつき、そして右手を伸ばす。
イオの前へ出された右手。
おずおずと、イオは自分の右手をそれに重ねる。
その瞬間。
ぐいっと引っ張られた。
イオの体が勢いに任せて移動する。


行き着いた先は―――



ルックの腕の中。


いつのまにか差のついた体はしっかりとイオを包み込んだ。
右手で、イオの頭を自分の胸へそっと押し込む。
とくん、と、ルックの生きている音が聞こえた。
「ねえ。」
耳元に聞こえてくる声は、とても心地よく響く。
「僕はこうやって今生きている。それだけじゃダメかい?」
「ル・・・ク・・・・・」
「僕は君の紋章に殺されたりしないよ。それとも、僕の事は信用できない?」
イオは黙って首を横に振った。
「じゃあ、それでいいんだよ。今僕は君を抱きしめる事ができる。君はこれ以上に何を望むの?」
イオはなにも答えない。
ただ、ルックの服を掴む手に力がこもる。
「ね・・・大丈夫だよ。君は勝てるさ。」
イオの背中をさすりながら、まるで泣く子をあやすようにルックは言葉を紡いでいく。


ルックの言葉が・・・心に染み渡っていく。
先程まであれほど不安でいっぱいだったのが、嘘のよう。




イオは、彼の体温をただ静かに感じた。





あたたかいと。



彼は今、確かに生きているのだと。



そう。





教えられたような気がした。




end

甘いのか暗いのか、よく分からない話になりました(笑)
場面はUの終盤、ナナミが死ぬあたりです。
後半の部分をすごく書きたくて、坊の不安になるような出来事を考えた結果、
なんとも不自然なつながりになってしまいました。
最後の方は結構気に入ってますが、オチがちょっと変・・・
前半書きながら、このままいったらフリ坊?とか思ったり(笑)
これはルク坊ですよー?奥さーん?
これはルク坊なんだ、ルク坊なんだと思っていたせいで、後半かなり甘め。
でもこれぐらいの書くのって、大好きです。
ただよく失敗するだけで。




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