小ネタ集 その1





〜落ち込む〜


バタン。
普段より少しきつめの音がして、それは扉が強く閉められたからだとふと思う。
この部屋にノックなしで入ってくるのは彼以外誰もいない。
扉に背を向ける形で書き物をしていたシグルドは手はそのままに違和感を感じていた。
いつもの彼ならばこういう時、うるさいほどに興奮しているのだ。
戦いでの、血が煮え滾るような高ぶりが冷め切らないのだと以前話していた。
そんな彼が何も言わずに部屋へ入ってくることも珍しいが、ずっと黙ったままなのはもっと珍しい。

これはもしかすると。
考えをめぐらせていると静かに彼の近づいてくる気配がし。

そして背後からぎゅっと抱きしめられた。

背中には彼のぬくもり。

まるでしがみつくように腕は襟元にまわされていた。


「おかえり。」

「・・・・・・おう。」

いつもの覇気などどこにもない、小さな、小さな返事。


ああ、やっぱり。

「どうした。」
静かに問えば、回された腕に少しだけ力が入る。
けれどその後に流れるのは静かな沈黙だけ。
シグルドは軽く息を吐いた。

答えが返ってくるなどとは初めから期待していなかった。
彼がこの部屋へ帰ってきた時からうすうす気づいてはいたのだから。
なにがあったのか、その明確なところはわからない。
自分は彼と違う仕事を与えられ、彼とは行動を別にしていたのだ。
けれど、『何か』があったことだけはわかる。

「ハーヴェイ。」

囁いて身体を動かそうとすると、その意図を察した彼の力が緩む。
椅子から立ち上がって彼の方を向くと、泣きそうな瞳に見据えられる。
そして再び強く抱きしめられた。


ポンポン。


緩やかに、その背中を撫でてやる。
何があったかは聞かない。
聞いて欲しいのであれば自分から言ってくるだろう、彼は。

だから、今は必要ないのだ。

彼が縋ってくるなら、手を差し伸べてやるだけ。

震えるなら、抱きしめてやるだけ。


―――きっと、また笑顔を見せてくれるから。


静かな部屋に、時折衣の擦れる音だけが響いた。





ハーさんだってたまには落ち込むこともあるんですよ。
そんな時シグルドは栄養ドリンクみたいな感じなんです(は?)






◇◆◇◆◇





〜賭け事〜


「おっしゃーっ!」
「ち・・・ちくしょう・・・」

今日も今日とてこのフロアは騒がしかった。
ちんちろりんを始め、べーゴマやリタポンなど賭けに最適なゲームがそろっている。
くつろげるようなサロンもあるためこのフロアに静寂が訪れることはほぼないと言ってよい。
ましてここの乗組員に血の気の多い者達は多い。

どことなく胡散臭げなギュンターを相手にちんちろりんで勝負しているのはハーヴェイだ。
「あっ!ちくしょっ、また負けかよ・・・」
このギュンターという男、この船に乗ったのはつい最近である。
なので賭け事好きなハーヴェイが早速よってきたのであるが。

「うー・・・うー・・・」
とうなっている通り、結果は惨敗。

ハーヴェイはこういうゲームに弱い方ではない。
頭を使うのは苦手だが、運はよいため大勝ちしたり、なんてことも珍しくはなかった。
だからこそ勇んでギュンターに勝負を申し込んだわけだが。
なんといおうと負けは負けで。
自分が使える金はすでに底をついてしまった。
諦めるしかないのだが。
それはわかっているのだが。
ここまで大負けして、このまま帰るわけには行かないとハーヴェイのプライドが強く刺激される。

がちゃ。

ちょうどその時このフロアへ足を踏み入れた人物を見止め、ハーヴェイが大きく叫んだ。
「シグルドーっ!」
「ハーヴェイ?なんだお前、こんなところにいたのか。」
呼ばれるまま寄ってきたシグルドの首根っこを掴み、ハーヴェイは早速金を貸せとねだり始める。
その姿は第三者から見れば脅迫に近い姿ではあったが。

「金?なんだ使ってしまったのか。情けない・・・」
「だーかーらぁ、今からそれを取り戻すんじゃねぇか。な?だから貸してくれよ。」
「断る。お前は貸したら貸したで返ってこない可能性が高い。」
「そんなの今ここで勝てば問題ないって。だからさぁ。」
「いやだって。大体こんなくだらない・・・」

「ほほぉ・・・お兄さん今、くだらないって仰いましたか?」

『え?』

2人のやり取りに口を挟んできたのはずっと傍で話を聞いていたギュンターだ。
「そんなことを仰るからにはさぞかしお兄さんは強いんでしょうなぁ。」
「いや、俺は・・・」
「ぜひともお手合わせ願いたいですな。どうです?一勝負。」
「賭け事は・・・苦手で・・・」
「あなたが勝てばそちらのお兄さんの取り分も返して差し上げましょう。こんな好条件でも・・・受けることはできない、と?」
ギュンターの瞳が挑戦的なものから嘲笑じみたものに変わる。
「シグルド、ここまで言われて受けなきゃ男じゃねぇ!」
横でハーヴェイがまくし立てるのを聞きながら、シグルドは深くため息をついた。

「・・・しょうがないですね。」

それが合図だった。





ハーヴェイは内心ドキドキしていた。
ああやってシグルドにやらせたはよかったが、実際彼が賭け事をしてるのを見た事はなかったのである。
島にいる時もちょっとしたゲームは日常茶飯事だったが、そこで彼を見かけたことはない。
シグルドまで大負けしたら。

ど、どうしよう・・・

なんてことをハーヴェイは思っていた。
そして30分後。





「・・・も・・・もう勘弁してください。」
さきほどまでとうってかわって泣きそうな顔をしたギュンターが手を合わせてシグルドを仰ぎ見る。
当のシグルドは、少し困ったように瞳を揺らしながら隣のハーヴェイを見つめた。
「・・・俺も、もうやめといた方がいいと思う・・・」
じゃないと、このおっさん船を下りちまうぜ。
続けて出そうになった言葉をハーヴェイは思わず飲み込んだ。
シグルドの左隣にはすでに抱えきれないほどの大金が積まれている。
「じゃあこれで終わり、ということで・・・ギュンターさん。」
「は、はい!?」
「なんだか、その・・・すみません。」
その言葉を聞いたギュンターは泣き出してしまった。
「おい、もう行こうぜ。」
しっかりともらえるものは小脇に抱え、ハーヴェイはシグルドの腕を引っ張った。

そして部屋で。


「お前ってめちゃめちゃ強かったんだな・・・でもなんでそれで苦手なんて。」
それだけ強ければ自慢にしてもよいはずだ。
なのに苦手だなんて、ハーヴェイには信じられなかった。
「・・・だから、本当に苦手なんだ。」
「だからなんで・・・」
「前にもな、同じようなことがあったんだよ。」

どこか居心地悪そうにそわそわしながら、シグルドが口を開いた。
シグルドは本当に負け知らずだった。
仲間内でも強くて強くて・・・

「どうしても次の日から態度がよそよそしくなるんだ。」
というか、避けられる。

「だから、『苦手』だというんだ。」


「お前・・・最高だよ。」
それはそれは真剣に呟く相棒に、ハーヴェイは軽くめまいを覚えた。





ウチのシグルドは強いよ?って話ですね。
弱い、でもなく、嫌い、でもなく『苦手』なんです。シグルドは。






◇◆◇◆◇





〜昼寝〜


「ハーヴェ・・・」
探し人を見つけたシグルドは彼に声をかけようとして思わず口を噤んだ。

だらんと下がった腕、壁に寄りかかった身体、少し傾いた顔。

もしやと思い覗き込めば、やはり。
彼、ハーヴェイは眠りについていた。


心地よさそうに眠る彼の正面に立って、ああなるほどと納得する。
風通しもよく日当たりもよいそこは一眠りするのに最適だろう。
ハーヴェイがあまり気持ちよさそうに眠っているものだから、どうしたものかと迷った。
用事があったのは自分だが、さほど急ぐことでもない。
もう少し、彼が自然に目覚めるまで待つか。
そう結論付けて、シグルドは自分も隣に腰を下ろした。
もうそろそろ日が沈みだすだろう。

赤く染まりかける空に、ハーヴェイの髪は似ていると思った。
光を浴びるその髪にそっと触れる。


まるで彼の強さを表すように弾力のあるその髪が好きだ。

今は閉じている瞳も、好きだ。

それから。


言葉を紡ぎ、『ぬくもり』をくれる、この唇も。


薄く開いた唇をゆっくりとなぞる。


そして引き込まれるように自身の顔が近づき―――――





「・・・んぁ?」
「起きたか、ハーヴェイ。ずいぶんよく眠っていたみたいだな。」
ぐいっと大きく伸びをしながら豪快にあくびをする。
「おお、なんかスッゴイ気持ちよくてよー・・・シグルド。」
言いながら自分の正面に位置取り夕陽の方向を向くシグルドをじっと見つめた。

「・・・なんだ。」

「お前、なんか顔赤くないか?」

「・・・・・・。」

「おーい、シグルドさぁ〜ん?」

「・・・夕陽のせいだろ?」

「そっかぁ?・・・なんか違うような・・・」


納得のいかない顔をするハーヴェイに笑ってみせるとシグルドは彼に背を向けた。





シグルドは基本的に恥ずかしがり屋です。
ハーヴェイならキスした瞬間おきて押し倒すぐらいのこと
しそうですが、今回は天然系で☆



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