キズナ










「いたたた・・・」

同盟軍軍主・シュリの姉、ナナミは落ちた衝撃で、まだフラフラする頭を振りながら言った。

レベル上げのための遠出をして、敵と戦っていたのはついさっきのこと。
ビッキーの繰り出した転移魔法が失敗し、どこかへ飛ばされてしまったのだ。
その飛ばされた場所が悪かった。
どこかの森のがけだったようで、その場所についたとたん、まっさかさまに転落してしまった。

そして今に至るわけだが。
まだ状況が整理できていない頭で、一生懸命考えていた。
と。
「怪我はない?」
と言う声が聞こえた。
しかも聞こえたのは自分の下から。
「キャアアアア!!ご、ごめんなさい!イオさん!!!」
ナナミは、イオを下敷きにしていたのである。

しかも思いっきり。

慌てて飛びのいたナナミに、苦笑しながらイオも立ち上がる。
「アハハ、その分だと、怪我はないみたいだね。」
それはそうだ、ナナミはイオを下敷きにしていたのだから。
「おい。」
と、木の上から声をかけてきたのはサスケ。
彼も今回のパーティの一人だ。
「今この辺りを見回してきたけど、他のやつらは見つからなかったぜ。」
忍者のサスケがそう言うのだから、信じてよいだろう。
他のメンバーはどこか違う所へ飛ばされたらしい。
今頼れる仲間は、この三人のみ。
そして、シュリがいないので、瞬きの手鏡もない。
しかも、ここがどこだか分からない。
そんな状況だった。


「そうか。ありがとう、サスケ。」
「別に、お前のためじゃない。」
イオがお礼を述べると、サスケはぶすっとした顔で答える。

そうなのだ。
サスケはイオのことが気に入らなかった。
「とにかく今は三人で固まって、助けが来るのを待った方がいい。」
イオは言ったが、これがまたサスケの癇に障ったようで。
「助けなんて待ってたって、いつ来るかわかんねぇじゃねえか。俺は嫌だぜ。」
またも反発する。
それを聞いたナナミが、サスケを説得しようとするが、聞く耳もたず。
「そんなに言うならお前ら二人で待ってればいいさ。俺は行くぜ。」
と飛び出していった。





いつもニコニコしていて、怒っているのなんて見たことがない。
こんな強くなさそうなやつが本当にロッカクの里を救った本人なのか?
サスケには、イオが三年前、解放軍を勝利に導いた英雄にはどうしても見えなかった。
いくら「ロッカクの里を救ってくれたトランの英雄」と言われても、到底信じられない。
イオは自分とそう年の違わない人間なのだから。
しかも、こいつはロッカクの里を壊滅に追いやったテオ・マクドールの息子で。
なのに、他のやつらには好かれたり、尊敬されている所なんかすごく気に食わなかった。
だから今日だって、本当はイオとパーティなんて組みたくなかったのに・・・
リーダー命令で、しょうがなく付き合ったら、こんな目にあってしまった。
どうせ仲間とはぐれるなら、イオと離れた方がよかったのに。
不満なんて、挙げようと思えばいくらでも挙げられる。
こんな状況の中でもテキパキと行動するイオが気に食わなかった。
「だから俺は来るの嫌だっていったのに・・・」

と呟いたその時だった。
自分のすぐ横で、何か唸るような声が聞こえたと思った瞬間、何かが飛び掛ってきた。
「!何だ!?」
とっさにかわしたサスケが見たのは、トラの群れ。
軽く5,6匹はいる様だ。
たった一人でこの数はきつすぎる。
しかも先程までの戦いで、体力も消耗している。
はっきり言って、まずい。


逃げなければ。
問題はこれだけの数の隙をどうやって見つけるか。
考えがまとまりきらないうちにトラの方から仕掛けてきた。
仕方がない。
まずは攻撃を避けなければ。
何とかなるだろうと思っていたが、甘かった事にすぐ気づかされる。
四方八方から来る攻撃に隙など見つからない。
一匹が襲ってきたのを何とかかわしたが、バランスを崩してしまった。
そこを狙い次の一匹が襲ってきた。
(だめだ・・やられる・・・!)



グオォォーーー!!




目をつむったサスケが聞いたのは、トラの断末魔だった。
(あれ?)
と、眼を開けてみると・・・


目の前には今しがた自分を襲ったトラの死体。


――――そして


「だから離れちゃだめだって言ったのに・・・」

ため息をつきながらそう言ったイオの姿があった。
後ろにはナナミもいた。
呆然としていたサスケだったが、イオの「下がってて。」という言葉で、はっと我に返る。
見ればイオの右手には、闇のオーラがあふれ出ていた。
その禍々しさに背筋が凍るような気を感じ、慌てて言われたとおりに後ろへ下がる。

イオはそれを確認すると、ゆっくりと右手を掲げ、呪文を呟く。


右手から発せられた闇はトラたちを飲み込み――――跡形もなく消し去っていった。





「もう心配したんだからね!」
まずナナミが口を開く。
それをややばつの悪そうな顔で受け止めて、サスケは気づく。
イオが今まで見たこともないような顔をしている。
そして近づいてきたかと思ったら。



ぱしっっ!


頬を叩かれた。

「な、何すん・・・?」
文句を言いかけて止まる。
イオの表情は、とても真剣だった。
「何かあったらどうする気だったんだ!どんな敵がいるかも分からない所を一人で行動するなんて自殺行為なんだぞ!」
「う・・・」
「・・・君が僕を嫌ってるのは知ってる。だけど、今はそんなこと言ってられる状況じゃないんだ。僕が進まなかったのは、闇雲に歩くだけじゃだめなのが分かってるからなんだよ。アイテムも少ないし、みんな疲れてる。そんな時誰かが大怪我をしたらどうする?そこに敵が来たら?今は、軽率な行動一つで自分だけじゃなくみんなが危険にさらされるんだよ。」
最後の方は諭すような言葉にかわっていた。
返す言葉が見つからない。
イオの言っている事は正しい。
自分勝手なわがままで、自分の身を危険にさらしてしまったのだ。
「――――ごめん」
俯き、しばらく何も言わなかったサスケが、小さく、小さく呟いた。
サスケ、と言われて肩に手をおかれる。
「無事でよかった・・・」
そう言ってイオは笑った。
いつもの、全てを包み込む笑顔で。
サスケはなんだか照れくさくなってまた俯く。
事の成り行きを心配そうに見守っていたナナミがよかったぁ〜と安堵のため息をついた。




そして夜――――


野宿の緊張からか眠りが覚めてしまったサスケはふと目だけを開けた。
自分の頭の辺りには、ぐっすり眠るナナミ。
そして焚き火を挟んだ向かいにイオが―――座っていた。


(・・・?)

イオは浅い呼吸を繰り返し、顔は大量の汗をかいている。
様子がおかしいは一目瞭然だ。
声をかけるべきか迷っていると、上着を脱ぎ始めた。
シャツを捲し上げて、見えたのは・・・左横腹の辺りにあるうっ血。
「それ・・・」
と思わず声がでてしまった。
はっとしたように顔をあげたイオはしまったといった様子だった。
「どうしたんだよ、それ!」
叫ぶように言った口を慌ててふさぎ、イオは口の前に人差し指を当てる。
視線の先には寝ているナナミが。
声のトーンだけは下げて、けれどそんなことお構いなしにサスケは問いただした。
「昼間の戦闘の時は怪我なんてしなかったはずじゃ・・・あ、まさか・・・ここに来たときか?」
否定の声はない。
テレポートの失敗で転落して、ナナミの下敷きになった時。
あれはまだ昼間だった。
つまりそれからずっとそのままでいたのか。
様子からして相当に重い。
骨の一本ぐらいは折れていてもおかしくないほどだ。
「何で・・・もっと早く手当てしなかったんだ!?いや、それより、何で言わないんだよ!?」
サスケにはイオが何を考えているのか全く分からなかった。
こんな怪我を負ったままで行動するなんて考えられない。
だが、イオの言葉を聞いたら、文句も言えなくなってしまった。
「僕が怪我したって知ったら、ナナミは自分のせいだって落ち込んじゃうだろ?」
「え・・・・・?」
「だから、言わない。ずっとね。」
そう言って穏やかに笑った。
どうやったらここまで考えられるのだろう。
自分が大怪我して、それでも、相手のことを思いやって。



やっと分かった気がする。
イオがいつも笑っているのは、周りの人間を安心させるため。
どんなときでも、'大丈夫だよ'と思わせるためなのだ。


これがトランの英雄。


イオ・マクドール。




「あああもう、俺がやってやるよ、かせよ!」
イオの手当てをしながら
(かなわないや・・・)
そう思った。

みんなにも好かれているわけも、みんな分かった。
イオの事を知ろうともしなかった自分がバカらしく、そして、今日、イオを知ることができて、よかったと思った。





急にイオが立ち上がる。

「来た。」
「へ?」
サスケの後ろで、突如風が吹く。
収まったとき、そこには風使いの少年の姿が。
「遅い・・よ・・・・・・」

そう言った瞬間。

イオの体がぐらついた。
近くにいたサスケよりも早く、ルックがイオを受け止める。
安心と、痛みのために、意識を失ったようだ。
「全く君は・・・また無茶やって・・・」
抱きしめ、ため息をつきながらの一言。
しかし、その顔は、明らかに心配していたのがわかる。
そんな見たことのないルックにもびっくりさせられた。
一連の出来事に、ついて行けずに固まっていたサスケが、しばらくしてから言った。
「お、おま・・?」
「あぁ、いたの?」
今気がついたかのようにサスケを見たルックは、もういつもの無愛想な顔に戻っている。
「あのサルに言われて迎えに来たんだよ。さっさとそこの起こして。」
相変わらず、ひどい。
サスケも展開の速さについていけてなかったが、それ以上にちんぷんかんぷんなのは、きっと突然たたき起こされたナナミだろう。
何はともあれ、無事に城へ帰ることとなった。





この一件で、サスケのイオに対する態度が一変。
イオは喜んでいたが、ルックは「またうざいのが・・・」と頭を抱えたという。





→おまけへ

書きたかったのは、かっこいい坊ちゃんと、サスケ君がどのように坊ちゃんを認めるかだったんです。
んで、坊ちゃんとルックの絆がいかに強いものかをサスケに見せ付けろーという筈だったんですが・・・
ものの見事に違っちゃってる(汗)
これじゃ普通にサスケ&坊じゃん(自己突っ込み)
ちゃんと最後に、ルク坊を入れる予定だったんですが、長くなりすぎたので、おまけ編にします。
それから、ちょっと補足を。
ルックが来て坊ちゃんが倒れたのは、ルックが来たからです。
もし他の人間が来てたら、きっと坊ちゃんは普通を装ったままで、帰ったことでしょう。
ルックだからこそその身を預けることができたわけです。
倒れるなんて、自分の弱い部分を見せているようなものですし、だから、サスケにも怪我の事黙ってたし。
ちゃんと伝わるように書きたかったんですが、きっと分からないと思います(泣)
なのでここに書いちゃいました。
恨むは自分の文才のなさ・・・くそ〜〜!

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