君と生きること










―――――目の前が、赤に染まる。





自分の前に崩れ落ちる体。
頬に、何か生暖かい感触。



・・これは、血?


何が起きたのかなんて、わからなかった。
ただ、覚えているのは鮮やかな、赤色だけ・・・・





ルルノイエの、ルカの自室。
ルカは今ここで、眠っている。
いや、正確には意識のない状態だ。
胸の辺りに重々しく巻かれた包帯は、それだけで傷の深さを物語っていた。
敵の兵士による裂傷。
その傷はひどく、今ははっきりと安心できる状態ではなかった。
もう5日になるだろうか。
まだ意識は戻っていない。
ベッドに横たわるルカの横に、イオは座っている。
今にも泣きそうな、そんな顔だった。
ルカの傷の原因は自分にあるのだ。
最近、右手に宿る紋章が妙に疼いていた。
特に、ルカといる時に。
単なる偶然とはどうしても考えられなかった。
この紋章が疼くと、必ずよくないことがおきる。
それは嫌というほど何度も見てきたのだ。
それで、いつもは行かない遠征に、無理を言ってついて行く事にした。


ルカを、どうしても守りたかった。

もうこの紋章のせいで傷つく人を見たくなかった。
自分の愛する人を守るため、イオは遠征に参加した。
しかし、それが結果的には仇となってしまったのである。

遠征の間、当然イオはルカの側にいた。
危険な出来事はさほど起こらず、遠征は終盤を迎えた。

そして、事件は起こった。
イオは疲れていたのかもしれない。
久しぶりの遠征で。
ルカの事をずっと気にしながらの戦いで。

・・・油断をしていたのだ。


自分が狙われることなど考えていなかった。
その一瞬の隙をついた、ある兵士の攻撃。
体はもう反応できず、斬られる事を覚悟していた。

なのに。

刀は自分の所へは来なかった。
誰かに突き飛ばされる感覚。
すぐ後ろに倒れこみ、顔を上げると・・・ ルカの体に刀が振り下ろされる。


真っ赤な血が勢いよく飛び散った。

目の前が真っ赤に染まる。

そのまま大きな体が沈む・・・ イオはその後どうなったかよく覚えていない。

あまりの衝撃に、何も考えられなかったのだ。
ルカを斬った敵の兵士は一体どうなったのか、どうやってその場を自分は切り抜けたのか。
全く分からない。



ただ記憶に残るのは、崩れゆく中で見たルカの顔―――


それはとても満足そうな微笑み・・・ 大将であるルカの負傷により、ルカの軍隊は引くことを余儀なくされた。




そして今に至る。
イオはルカの顔を見つめたまま動かない。
ルカを自室に運んでから、イオはずっとルカの側についていた。
食事もとらず、眠りもせず、ひたすらルカが目覚めることを祈っていた。
それではイオも体調を崩すと周りの者に言われたが、決してイオは側を離れなかった。
離れることなどできなかったのだ。
ルカのことが、心配で、心配で仕方がない。
ルカのこと以外考えられない。

どうしてこんなことが起こってしまったんだろう。
僕が行かなければ、ルカは斬られたりしなかった?
僕さえ、遠征に行かなければ・・・ こんなことは起こらなかった。

バカか?僕は。
この人を守るために無理を言ってついて行って。
逆に足を引っ張ってしまった。

守るどころか守られて―――怪我をさせた。

もしこのままルカが目を覚まさなかったら・・・ 僕はどうすればいい?
ルカのいない世界なんて・・・僕にはいらない。

イオの頬に、涙が流れる。

悲しくて、そして、恐くて――― 涙はとめどなく流れる。

早く、目を覚まして? 僕を早く安心させてよ・・・お願い・・ ルカ・・・・ルカ・・・・・ その時だった。





「泣くな・・・」

そして、同時に大きな手が、イオの頬に触れた。
頬を伝う涙をその大きな手が掬い取る。

「泣くな・・・」

「ル・・・カ?」

ルカがイオを見つめている。


意識が―――――戻った。

イオは嬉しさで、思わずルカに抱きつく。
「ルカ・・・ルカ・・・・よかっ・・・ルカァ・・・」
再び涙があふれた。
安心したせいで、涙はもう止まりそうにない。
イオを抱きしめ、ルカは言った。
「泣くなと・・言っただろうが・・・ばか者・・・」
その口調は、とても優しかった。
「だって・・ルカ・・死ぬんじゃないかって・・・恐くて・・・」
言いながら泣きじゃくるイオに、ルカは。
「バカが・・・俺が死ぬわけないだろう。」
そう言いながら、ルカはイオが落ち着くまでイオの背中をなでてやった。



しばらくすると、イオも落ち着いたようだ。
ルカに、今の状況を話し始めた。
ルカが倒れてから5日が経っている事。
ルカの軍は今待機の状態である事など。

そして、ルカの状態が、危ないと言われていた事・・・
「それで、お前も信じていたのか?この俺が死ぬなど、ありえん話だ。」
「で、でもルカ全然起きないし・・・本当に恐かったんだから!」
ぷう、と、照れながら膨れた顔をしてみせる。


「お前の声が聞こえたんだ。」

「・・えっ!?」
「お前が、俺を呼ぶ声が聞こえたのだ。お前が呼べば、俺はいつでもお前のもとに駆けつける。たとえ死の淵からでも俺は蘇ってみせる。」
「ルカ・・・」
「泣くなと言っただろう?お前には、笑顔のほうが似合う・・・」
ルカの手がイオの頬に再び触れる。
一生懸命笑おうとするのだが、涙はちっとも止まらなかった。
「ルカが生きててよかった・・・ほんとに・・・よかった・・・」





君と一緒に生きること。



何より大切な・・・大切なこと。



この人の側で、僕は生きていきたい―――





end

はい、ルカ様別人ですね(汗)
今回のテーマって「ルカ様が坊ちゃんかばって大怪我」だったんですが、そこより違う所に力入っちゃってます。
いや、実際こんな感じに書きたかったので自分はよいのですが。
皆様は大丈夫でしょうか?
とても、とっても心配であります。
そして最後!
なんか、ものすごく中途半端な感じに終わってしまった・・・
あれをですね、もう少し続かせると、タナキの技量ではどうしてギャグなオチにしかなりませんでした・・・(笑)
なので、これでお許しください〜。


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