犬。










ぶっちゃけ、ハーヴェイはでかい犬だ。
と、思う。





水平線に夕日が映る頃、鍛錬を終え風呂でさっぱりした俺は、たまたま彼を目にした。
彼が乗組員と話している所へ、本当にたまたま通りかかっただけだったのだが。
「おーっ!」
と叫んだかと思うと、やたらキラキラした目を向けこちらへ駆けてきた。

そして。

「元気そうじゃねぇか。今まで何してたんだ?
ん?そーか、鍛錬か。そうだよな、俺たちはいつでも戦えるようにしとくべきだもんな。
よし!気に入った。今から飲みに行くぞ!俺様がおごってやる!!」
口を挟む間もなく、気がつけばハーヴェイに引っ張られた。

その時偶然、先ほどの乗組員が目に入る。
あーあ、とか、やれやれ、といった感じで苦笑を浮かべていた。
ついでに軽く手を振られ、この場をどうしようという気もないことがよくわかった。

彼のその表情をみて、周りを見渡して、ああそうだった、と思う。

今、この船に彼の相棒はいない。


あの場にいたハーヴェイは、きっと暇を潰していたのだ。
そして顔見知りである自分を見つけて、新しい暇つぶしの相手に決めたのだ。
きっと。
そうすれば先ほどの乗組員の表情も納得が行くと言うものだ。
だが今度はこちらがやれやれだ、と小さくため息をついた。
もちろん、喜び勇んで酒場に向かう彼には聞こえてなんていないのだろうけど。





そして俺は、どうしてこんな時間から酒を飲みまくっているんだ・・・?


思わず突っ込みたくなるのも無理ないと思う。

今日はこの後、したいと思っていたことがあった。
もちろん今日出なければならないというものではなかったけれど、それでも予定だったのだ。
それを全てほったらかして、自分は何でこんなところで酒を飲んでいるんだろう。
横にハーヴェイを連れて。
と言うか、むしろ原因は彼にあるのだが。
そしてその原因は、すでに2倍近い酒を空にしていた。
人の気も知らずかぱかぱと飲んでは陽気に話しかけてくる。
ついでに言うと、こちらが話を聞いていようがいまいが関係ないのだ。
だって相槌を打っても、打たなくても勝手にしゃべっているのだから。

「シグルドがなぁー、あいつのせいでさぁー!うんぬんかんぬん・・・」

一体その名前を今だけでも何回聞いたことか。
さっきから彼の話ばかりしているように聞こえるのは俺の気のせいだろうか。
あいつは普段からうるさすぎるだの、細かいだの、人の気持ちがわからないだの・・・
聞こえてくるのは文句ばかりだ。
最も、それはこいつがそうだと主張しているだけで、本当にそうであるとは限らない。
少なくとも俺はシグルドという人物をそんな風には思っていないし。


俺はこの軍へ入る経緯も手伝ってか、しばらくの間この船に馴染めないでいた。
それが今のように意識せず過ごせるようになったのは、ひとえにシグルドのおかげだ。
あの人は周りへの気配りを、さりげなくすることに長けていると思う。
押し付けるのではなく、本当にさりげなく、でも何度も気をかけてもらった。

だから人の気持ちがわからないというのはこいつの単なる愚痴なのでは、と思った。

「俺は、シグルドがそんなやつだと思えないが・・・」
「おぉ?何だ、お前、俺様に文句あるってのかよぉー!」
本気で怒っているのではないであろう口調で、小突いてきた。
なんかもう、ひたすら酔っ払いという感じだ。
ハーヴェイに気づかれないように小さくため息をつくと、一口酒を口に含んだ。


と。


何にかわからないが、ハーヴェイはいきなりぴくりと反応し顔を上げる。
勢いよく立ち上がると、俺に一言もなく駆け出していった。

そのすばやいこと。

こちらが声をかける隙間もなかった。


でも俺は見た、扉目指して振り返った時一瞬見えたヤツの顔を。

顔は真っ赤なまま、ものすごく笑顔だった。



たぶん。

そして突然の行動にしばらくの間呆然としていた俺は、大変な事実に気づく。


「あいつ・・・金払ってない・・・」





飲み逃げするわけにもいかず、結局2人分の飲み代を払って店を出た。
どこに行ったのかは知らないが、一言文句は言ってやらないと気がすまない。
そう思いサロンのある階まであがってきた。
すると、なにやら人だかりができている。
後ろから覗いてみると、どうやら遠征組が帰ってきたようだ。
皆それぞれにねぎらいの言葉や歓迎を受けている。
そこでふと、本来ならはこの場にいなければならない人物の不在に気がついた。

シグルドだ。

気づいた瞬間、もしかしなくてもそういうことなのだろうと予測はついたが、一応隣にいた人間に尋ねてみた。

「シグルドさん?さっきハーヴェイさんが・・・」



あー、もういいですわかりました。

どういう感覚をしているのか知らないが、あれは帰ってきた相棒を迎えに行ったんだな?
その隣にいた船員が、ぷぷぷと笑いをかみ殺しながらなおも教えてくれた。
「もうすごかったですよー?」

船内に下りてきたのは、シグルドが最後だった。

皆たいした怪我もなかったため、まずは広間へ向かうことになっていたのだが。
いきなりでかい声とでかい音がしたかと思ったらハーヴェイがダッシュしてきた。
そのままシグルドにタックルをかまし、お帰りとしがみつく。
お前なぁと文句を言おうとしたシグルドを満面の笑みでかわし、あっという間に連れ去ってしまったらしい。


「あれはまさしく。」

「そーそー、あれは・・・」


『ご主人様と犬、だったね』


見ていない俺の声までもが見事にハモった。



ものすごく疲れたような気がしてがっくりと肩を落とした俺は、自室へ戻るべく歩き始めるのだった・・・





次の日の午後。


腕の中にいたはずのシグルドが消えていて、ハーヴェイは首をひねった。
おっかしいなぁ。
呟いたちょうどその時、扉の開く音と共に彼の人が姿を現した。
どこ行ってたんだよー!とまたじゃれだしたハーヴェイをそのままにしつつ、シグルドが彼を少し睨む。
「お前、昨日酒場で金払わずに出てきたって?」
「おぅ?」
「おうじゃない、全く・・・。ヘルムートが全額払ってくれたそうだぞ。」
しかも親父さんの話じゃお前がおごるはずだったらしいじゃないか。
お前は何だってそう・・・
少し咎めるように言ったが、ハーヴェイには相変わらずの笑みが浮かんでいる。
だめだ、これじゃ意味がない。
「とにかくちゃんとヘルムートには謝るんだ。」
「わかったわかった。」
「金もお前が言ったんだからちゃんと払え・・・ってこら。」
「うーもー、わかってるって。んで?今日はゆっくりできんだろ?」
聞いてきたハーヴェイはすでに押し倒しの体勢に入っている。
「・・・それはそうだが・・・おい。」
非難めいたシグルドの視線も何のその。
「なんだよ別に問題ねーだろ。あんなんじゃ足りねーっつーの。」
言いつつ、指はすでにシグルドを脱がしにかかっていた。
これ以上は無駄だな、と悟り、身体の力を抜く。



全く、この『犬』は寂しがり屋で困る

声には出さず、思った。





後日、船員達の願いにより、ハーヴェイとシグルドが別々に行動することはなくなったとか。
ハーヴェイは喜び、シグルドは深いため息をついていたとか。





end

ということで、ヘルムート視点でした。
えーと口調が微妙なのはお許しください。
まだ明確でないということでございます。
ついでにハーシグ?って感じですが、誰がなんと言おうとハーシグです!
いいんです(笑)

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