「あのさ、厨房ちょっと貸してくんねぇ?」
問われた言葉に、フンギは思わず目をぱちくりとするのだった。





    独り占め










コトコト・・・


なべの中からほんわりと何かおいしそうな匂いがした。
「へぇ、いい匂いだな。あれ、これは・・・おかゆかい?」
ひょい、と横からフンギがなべの中身を覗く。
ぐつぐつと煮えるそれはおかゆには間違いなさそうだった。
だが、普通のおかゆとは匂いが違う。
「あぁ!これはハーヴェイ様特製のおかゆだからな!」
楽しそうに材料の話をしだしたハーヴェイをニコニコと見つつ、ふと頭に浮かんだ至極当然とも言える問いを口にする。

「アレ?ということは、誰か具合でも悪いのかい?」
「あー・・・うん、シグルドのヤツがさ・・・」

と、彼が言うには彼の相棒が風邪を引いたらしい。
聞いて、そういえばつい最近まで彼らがサキと一緒に遠出していたことを思い出す。
疲れが出たのだろうか。
「なんだ、それなら言ってくれればおかゆぐらい作るのに。」
「いーんだよ。俺が、作ってやりたいんだからさ。」
んー、となべの中身を味見しながらハーヴェイがなんでもないことのように言った。
真剣に味をみる彼は、密かにフンギが驚いたことを知らない。


(そういえばちらりとそんなことは聞いてたけど・・・)

彼とその相棒の間には単なる仲間を越えた絆がある。
ぶっちゃけ彼らはデキている。
仲よさそうには見えたけど、そうかアレはナチュラルにいちゃついてたんだな。

わけのわからない納得をしながら、そうかそうかと相槌を打っておいた。
気を取り直して特製おかゆの隠し味なんかを聞いてみた。
普通とは少し違う材料を得意そうに教えてくれたが、隠し味だけは嫌だとそっぽを向かれる。
いいじゃないか、秘密にするから、とくだらない押し問答をしていたその時。



「おー!ハーヴェイじゃねぇか。そんなとこで何やってんだ?」


声を聴いて、ハーヴェイがあからさまに嫌な顔をした。
彼にとっては古い仲間であり、フンギにとってもすでに顔なじみになりつつあるダリオだ。
しっかり後ろには息子のナレオがくっついていた。
「見てわかんねぇのか。飯作ってるに決まってんだろーがよ!」
けっ、とハーヴェイはダリオから視線を外す。
「飯〜?珍しいな。お前が料理するのなんか久しぶりに見たぜ。」
ニヤニヤと笑ってくる彼をハーヴェイは思い切り睨む。
「あーもーうっせーうっせー!」
「ちょーどいいや、俺にもなんか作ってくれよ。」
どかっとカウンターに座りながらダリオが言った。
お前なかなか料理うまいもんな〜と、すでに作ってもらう気満々らしい。
「ヤダね。何で俺がお前に作ってやんなきゃなんないんだよ。」
そっけなく返せばとたんに上がる文句の声。

ぎゃーぎゃー騒ぐダリオを無視したまま、ハーヴェイはもう一度なべの中身をすくって味を見た。
「あ、わりぃ、玉子3つぐらいもらっていいか?」
フンギに問えば、彼は快く承諾してくれた。
そのうちの1つをさっとかき混ぜてからなべに落とし、すばやく箸を動かした。
細く固まった玉子が、ふわふわと浮いてくる。
うし、と一度頷いて、今度は後2つをフライパンに流し入れる。
手際よくフライパンが振られ、何度も玉子が舞い上がった。
流れるような動きで、それは皿に盛り付けられた。

「できあがりっと。」


ハーヴェイは満足そうな笑みを浮かべながら、それらを盆に載せていた。
ダリオはそれを恨めしそうに見つめていた。

と、その時。



「シグルドさんが倒れたって本当かよっ!?」

叫びながら扉を開いたやつがいた。



「げっ、ジェレミー?」
思わず顔をしかめたのはハーヴェイである。
「おい!ハーヴェイ!ホントなのかよ!・・・それなんだ?」
それ、とはもちろんハーヴェイがその手に持っているものである。


彼は誰が見てもわかるほどシグルドに懐いていた。
そしてハーヴェイはジェレミーのことが嫌いだった。

とはいっても本当に彼のことを嫌っているわけではないのだが。
単純に、彼がいるといつもシグルドをとられてしまうので、それが嫌なだけである。

いわゆる嫉妬というヤツか。



当然、シグルドが寝込んでいるだなんてこと言いたくなかった。
そうと知れば、彼はシグルドを見舞うだろう。
そしてまたハーヴェイはシグルドを取られる。
ここは無視の方向で、と結論付けたハーヴェイであったが。

「おいっ!聞いてんのか!?バカハーヴェイッ!!」
「・・・あぁっ?何だとこのクソガキ!!」

売り言葉に買い言葉とはまさにこのことである。
横の方で、密かにナレオが笑っていたことを、2人とも知らずにいた。
「あ!それおかゆだろ!ってことはやっぱりシグルドさん具合悪いんだな?」
「なんでもねっつーの!大体、お前そんな事どこで聞いたんだよ?」
ん、とジェレミーは斜め後ろを指差した。

その方向には、ナレオがニコニコと笑っている。

「あーもー・・・」
ハーヴェイはちょっぴり泣きたい気持ちになった。
ナレオという人物は、天然なのか、わかっているのか、結構人を困らせるようなことをやってのける。
ダリオとぎゃーぎゃー言い合っている間にいなくなっていた息子は、外でジェレミーにその話をしたわけだ。

よりによって彼に。

ハーヴェイとしては、ナレオがこれ以上他のところで言いまわってないことを祈るばかりだ。


「で?シグルドさんは部屋?」
「そうだけどよ、なにお前部屋まで行くつもりしてんの?」
一応疑問形にはなったけれど、彼がそう思っていることなど一目瞭然だ。
「そうだ・・・」
「だめだぞっ!!」
ジェレミーの言葉を遮るようにしてハーヴェイが叫んだ。

「だめだ、だめだ!絶対くんな!!」
「なんでだよ!」
「なんででもだっ!とにかく、絶対だめだっ!!」
「そんなんで納得できるわけないだろ!?」
理由言わなきゃ絶対退かないからな!とジェレミーが意気込んだ。

ハーヴェイが一瞬言葉に詰まる。


「・・・弱ってる姿なんて、見せたくないんだよ・・・・・・」


今までと全く違う声に、ジェレミーも思わず口を噤む。

「嫌だって、あいつが言ったんだよ・・・だから・・・」



頼むよ、と弱々しく告げれば、誰も言葉を返すことができない。


「・・・わ、わかったよ・・・」
未だ納得はできていないものの、そう言われてしまえば反対もできず、ジェレミーがしぶしぶといった様子で頷いた。
「悪い・・・」
少し視線を逸らし気味にそう呟くと、ハーヴェイは1人その場を後にした。





「へへっ・・・」

嘘である。


いや、まるっきり嘘ではないが、本当でもない。
まだあの島を根城にしていた頃風邪を引いたシグルドがこう言っていた。
「ぜぇぜぇ言っているところを見られるのは恥ずかしいな。」

つまり嫌だとは一言も言っていない。

言ってはいないが、まあ似たようなことだ、とハーヴェイは結論付けた。
別にハーヴェイとて好き好んで嘘をついたわけではない。
そこまで彼らを拒否する必要はないのだけれど。
「いや、でもやっぱヤだし。」
うんうん、と頷いて、目の前の扉を開いた。


彼がそこまで嫌がっていた理由、それは・・・・・・





「おい、シグルドー。起きてっかー?」
先程作った食事をベッド横にあるテーブルに置き、シグルドに声をかける。
目を閉じていた彼は、ゆっくりと目を開いた。

「・・・ハーヴ・・・・・・?」


ぼんやりしたまま2、3度瞬きを繰り返し、ようやくといった様子でこちらを見つめる。
「ほら、メシ作ってきたから・・・食えるよな?」
「ん・・・」
だるそうに、いや実際にだるいのであろうが、その身を起こし、楽な体勢を取る。

熱のせいで紅潮した頬、潤んだ瞳、しっとりと汗ばんだ肌。

首筋には幾筋かの髪がまとわりついていて、やたらと艶かしく映った。


なんか、やたら色っぽく見えるんだよなぁ。

思わず視線を逸らしながらハーヴェイは心の中でそう呟いた。
そんな彼にかまわず、シグルドは手元のおかゆを一口分掬う。



「・・・おいし・・・・・・」



か、可愛い・・・っっ!!

おかゆの載った匙を口に含み、頬を緩めた時の顔といったら、もう!


シグルドは普段、どちらかと言ったら綺麗に笑う。
けれど、今シグルドは、熱のせいもあってとても無防備で。
いつものような笑みではなく、まるで子どものような、そんな可愛らしい笑顔だった。





これだから・・・

これだから、誰にも会わせたくないんだよな





こんな無防備なシグルドを、誰が好き好んで他のやつらに見せるか。


てゆーか、みせてたまるか。


もったいない!





食べさせてやる、と普段の彼なら即行で断られるであろうことをやりながら、ハーヴェイは心に誓った。





大事に、大事にするから。


この幸せは、俺だけのもの。




それはハーヴェイの、独占欲―――――





end

リクエスト、「料理するハーシグ」でございました。
な、なんだか全然料理のところに重点置かれてなくてすいません〜(汗)
ハーシグとかいいながらシグルドがちっとも出てなくてすいません!(滝汗)
えっと、愛だけはいっぱい詰めたのですが・・・
こんなものですが、よろしければお受け取りくださいませ。
リクエスト、どうもありがとうございました!

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