永遠の中の一瞬(5)










あの頃が、蘇る。




全ての始まりとなった、あの雨の夜。
がむしゃらに戦うだけの日常。
従者を見殺しにし、父をこの手で殺めた。
皮肉なことに、その度右手に宿る「呪い」は力を増し。
そして、その力で、勝利を得た。



最後には。
最愛の友すら失い。




僕は一人になった。


―――僕は。



―――僕の心は。




あの時から壊れていたのかもしれない・・・





イオの瞳がゆっくりと開く。
「・・・ここ・・・・?」
「気がついたか?ここはルルノイエ。俺の城だ。」
うつろな目でしばらく辺りを見回して、ルカの存在に気づく。
「・・ル・・・カ・・・?」
ルカはうなずき、イオの髪に触れる。
まるで、イオの存在を確認するかのように。
そして。
「覚えているか?お前はあの小屋で倒れたんだ。」
「小屋・・・」
少し考えた後、イオは重々しくうなずいた。
「あの時、何があったのだ?あそこには、大量に墓があった。お前は錯乱していて答えなかったが・・・あれは、あの動物達の墓なのか?」
イオは答えようとせず、しばらく沈黙が続いた。
イオの顔色が悪くなってきたのは気のせいではない。
唇はかすかに震え、静かに目を閉じる。
「・・・ごめん。今は・・一人にして欲しい・・・・お願い・・・」
ルカはどうするか迷ったが、イオの様子が普通ではなかったので、これ以上聞くことはしなかった。
イオの頬に優しく触れ、ルカはその部屋を出て行った。
パタン。
まだ包帯の巻かれたままの右手を、左手で強く握り締める。
そして、誰にともなく呟かれる言葉。
「ごめんなさい・・・」





今ルカとイオは、城の敷地内にある離宮で住んでいる。
人の多い所は苦手だと言ったイオのために、ルカが建てさせた物だ。
あれからしばらくした後、イオは、あの時の出来事を話した。
そして、城を出て行こうとした。
が、ルカに引き止められたのだ。
「人のいるところは苦手だ」といって、城に残ることを拒否したのだが・・・
ルカはいきなり離れに宮を建てさせたのだ。
ここなら大丈夫だろう?といって。
断りきることができず・・・現在にいたる。



イオは大きな木の根元に座っていた。
膝の上では、リトが気持ちよさそうに昼寝をしている。
手を差し伸べると、小鳥が止まり、音楽を奏でる。
暖かい日差しの中、イオが何をしているのかというと。
ぼぅっと考え事をしていた。


ここに来てから、どのくらい経ったのだろう。
始めはこんなに長居をするつもりはなかった。
けれど、ここは居心地が良すぎて・・・
昔の、何もかもが始まる前の事を、よく思い出す。
何も知らず、幸せだった。
あの頃のような暖かみが、ここにはある。
愛されていることの心地よさ。
このまま、ずっとここにいられたら・・・

なんて。
それは夢でしかない。
許されることのない罪を自分は負っている。
ここに居続ければ、周りの者に迷惑がかかるのだ。
あの、動物達がそうであったように。
もうこれ以上犠牲は増やしたくない。



ここを出なければ。

早く。


「イオ様。」
自分を呼ぶ声がする。
クルガンだった。
閉じていた目をゆっくりと開ける。
「何か?」
「ルカ様が呼んでおいでです。離宮へお越しください。」
「―――そう。」
静かに返事を返し、イオはリトを抱きかかえ立ち上がった。
そして、離宮へと消える。



その場に一人残ったクルガン。

(ここで一体何をしているのか・・・)
あの方はここにいることが多い。
このルルノイエへ、ルカ様があの方を連れて帰った時は、正直驚いたものだ。
ルカ様が、自分以外の人間に興味を持つなど、今までなかった。
ましてや、城につれてくるなど絶対にありえないと思っていたのだが。
だが、しばらくあの方を見ていて、ルカ様が気に入るのも無理はないと思った。
周りを惹きつける何かを持っている。
あの方は、決して笑わない。
いつも、悲しいような、つらいような顔をしている。
それでも惹きつけられる様な何かがある。
あの方が、ずっとルカ様の側にいてくれたらと思う。
ルカ様が穏やかになられたのは、きっとあの方が原因なのだろう。


(あの方がここにとどまるように――――)

クルガンは、そう願わずにはいられなかった。





ここで過ごすようになってから、ルカは気づいた。
イオの顔から、笑顔が消えた。
今は、負の表情しか映すことのない顔。
前に比べれば、別人といって良いかもしれない。
ここでイオと生活することは、前から望んでいたこと。
しかし、このままではいけないのだ。



イオの本当の笑顔をもう一度見たかった。
けれど、どうすることもできない。
自分には、イオを治す力などない。
歯がゆかった。
悔しかった。




――――情けなかった。





to be...             ←4    →6
                    

はーい、坊ちゃんが壊れてます。
壊れてるっていうか、心を閉ざしてる感じですかね。
さあ、ルカ様は坊ちゃんを助ける事ができるのか?
今回クルガンさんがでばってますが、この役を誰にやってもらうかを結構迷いましたね。

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