永遠の中の一瞬(3)










「お兄様、最近よくどこかへ出かけてらっしゃるようですわね。」
そう尋ねてきたのは、ジルだった。
「お前には関係のないことだ。余計な詮索はするな。」
「それはそうですけど・・・」
「?何だ、言いたい事があるなら、はっきり言え!」
少しの沈黙の後、ジルは、微笑みを浮かべながらこう言った。
「いえ、いつも、とても楽しそうに出かけてらっしゃるから、少し気になっただけですわ。それにしてもお兄様、なんだか恋をしているようですわね。」
「なっ!何を・・・」
「何でもありませんわ。いってらっしゃいませ。」
にっこりと微笑まれ、見送られてしまった。
(恋・・だと?この俺が?そんなバカな・・・いや、しかし・・・)
妹からの突然の言葉に、クロイツを走らせながらもルカは動揺していた。
そんな事はないと思いながらも、自分のイオに対する感情はなんと言っていいのか分からない。
もしかしてそうなのか?いやしかし・・・
ルカの疑問は解消する気配もなく、ますます深くなっていくばかりだった・・・





あの小屋へ着いて、始めに目にするのが、イオの動物達と戯れる姿。
その姿は、正直言ってかわいいと思う。
(って、一体俺は何を考えているのだ!?)
ジルに言われた言葉のせいか今日は変な事ばかりに頭がいってしまう様だ。いかん、いかん、と思っていた矢先に。
「どうしたの。ルカ?」
と、いきなりイオの顔のアップ。
「うおっ!?」
心臓がバクバクうるさい。やっぱり今日は変だ。
即座に飛びのいたルカの様子に、ちょっとびっくりした後、イオは、ぷぅ、と頬を膨らませる。
ルカの対応が気に入らなかったらしい。
だが、ルカはそれどころではない。

この感情は、恋、というものなのか?

わからなかった。今まで、こんな感情、誰にも抱いたことはなかったのだから。
暖かいものに包まれているような感じ。
ここへ来ると、穏やかな気分になる。
自分が、穏やかであることを心地よく思う自分がいる。

こいつを、イオを手放したくない。

この感情は―――――やはり恋なのか?


きっと・・・そうなのだろう。

その答えで、すんなり納得がいくのだ。
その考えにたどり着いたとき、今までのもやもやしたものが、すぅっと胸の中に消えていくのがわかった。



ルカは、さっきから、何かを考え込んでいるようで、ずっと難しい顔をしている。
何を考えているのだろうか?もしや、国のことではないだろうか・・
初めのうちは、ほおを膨らませていたイオだったが、思案顔のルカを見ていると、だんだん不安になってきた。

今度は心配そうにルカの顔を覗き込む。

ふと、急にルカと視線が合った。
一瞬ルカが、にや、と笑う。
そして、いきなり抱きしめられたと思ったら、唇に何か暖かい感触。
それは、まぎれもなくルカの唇だった。
「んっ・・・んん・は・・・・な・に・・・?」
解放されたイオは、やっとの思いで言葉を紡いだ。


「どうやら・・・」

「え・・・!?」

「どうやら、俺はお前に恋をしたようだ。」
イオの周りで、時が凍りつく。
(い、今この人は僕に何を言ったんだ?・・・確か―――恋って・・・それって、も、もしかして、す、好きってこと?――――)
ルカの言葉を頭が理解した瞬間、イオの体温が一気に上昇する。
体が熱くなる。顔は耳まで真っ赤になってしまった。
そんなイオの反応は見ていて、とても楽しい。
少なくとも、自分はイオに嫌われていない。それどころかこれは、ひょっとすると・・・

一方のイオは、パニック状態である。
どう答えればよいのだろう。
自分がルカをどのように見ていたかなんてわからない。
でも、告白されたことはとても―――嬉しかった。

この気持ちを伝えようと、口を開きかけたその時、過去の出来事が頭をよぎる。
あぁ、そうだ。僕がこの人に応えられるわけがなかったんだ・・・


「離して・・・」


そう小さな声で言った後、イオはルカの胸を押した。
急に暗い表情になったイオにルカは疑問を感じた。さっきまでとは明らかに顔が違う・・・
「僕は・・・君の事・・好き・・・・なんかじゃない・・・」

!!!

なぜ、なぜだ!

拒否をされてしまったショックで、思わず叫びそうになるが、ふと、あることに気づいた。
「おい、なぜ俺の目を見ない?なぜ俺の顔を見て言わないんだ?」
そう言われたイオの肩がかすかに震えている。
と、一瞬の隙をついて、イオはルカの腕の中から離れてしまった。
少し離れたところから再びイオが言った。
「僕は・・君の事なんか・・・・・嫌いだ。」
絞り出すような声で、その言葉だけを残してイオは森の奥へ走り去っていった。



残されたルカは呆然としていた。あの拒絶の言葉などにではない。
そう言ったときのイオの顔。
イオは泣いていなかった。けれど、その瞳は物悲しく揺れていて。泣くよりももっと、もっとつらそうだった。
どんなことを思ってイオはあの言葉を紡いだのか・・・
ルカにはわからない。ルカにわかるのは、きっとあの言葉が本心ではないであろう、と言う事。
それで十分だった。
「ちっ!」
苛立たしげに舌打ちをして、ルカも急いでイオの後を追う。
とにかくイオともう一度話さなければ。



しかし、どんなに森の中を探してもイオの姿を見つけることはできなかった――――――



クロイツにまたがり、森へ行く。イオがそれを出迎える。そして、時間をすごす。
それが日常になっていた。ずっとこのまま続けばいいと、そう思っていた。
こんなことになるなんて思ってなかった・・・





ルカはあれから毎日といっていいほど、森を探し回っている。だが、イオを見つけることはできず、手がかりすらない。
日増しにイライラばかりが募っていく。
そのイライラに輪をかけたように始まった戦争。
父、アガレスの命のもと、ルカも出陣をしなければならない。
(イオ・・・・・)
そう心の中で呼びかけ、ルカは出発した。





その頃イオは、あの森にいた。
ずっとルカに見つからずにすんだのは、森の動物達のおかげである。 


ふう、とため息をつく。
あの日から、時はかなり過ぎている。
しかし、イオの頭の中では、いつまでたってもルカの声が消えない。
この胸にある気持ちを素直に伝えられたら、どんなによかっただろう。
けれど、それは許されない行為。
この想いを伝えてしまったら、この右手の紋章は新たな獲物に歓喜するだろう。
イオが未熟であったせいで、喰らった人々。
テッドの魂を喰らったとき、決めたことがある。


――――――二度と大切な人を作らない――――――


もう耐えられなかった。大切な人が目の前で死んでゆくこと。その魂までも自分が縛り付けていくこと。
だから・・・一人で生きていこうと、そう決めたのだ。
あの言葉はルカのためでもある。自分にとっても。
なのに・・・・どうしてこの胸はこんなにも苦しいのだろう。
あの言葉をとても後悔している自分がここにいるのだ。
あやまりたかった。だけど、もう許されない。
(僕は・・あの人を傷つけた・・・苦しませてしまった・・・)
会いたい。会ってあやまりたい。だけど、会えない。
誰にともなく呟く。「ごめんなさい。」
(ルカ・・・・・)


その時だった。イオの心に、動物達に悲鳴が響く。
助けを求める声。苦しいと、叫んでいる。
何が起こっているのかなどわからない。けれど異常であることは確か。
その声を頼りに走った。けれど、どんどん声の数が少なくなってゆく。
嫌な予感がする。そんな予感を振り切るかのように首を振って、イオは全力で声の方へ向かった。
途中で、声が消えてしまった。最後の声が聞こえなくなった。
聞こえなくなった理由はきっと・・・だけど、そんなことないと、信じたい。
走って、ひたすら走って―――イオの目にしたものは―――――見るも無残な動物達の死体だった・・・





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乙女モード全開?てな感じの展開ですねぇ。
そして、展開が速い速い。マッハですか?(自分が聞くな)
この後、坊ちゃんには、かなりつらい思いをしていただくことになります。
ごめんよ〜(泣)

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