永遠の中の一瞬(2)










あの出来事から、一ヶ月が過ぎた。ルカの体調もすっかり元通りである。
彼は今、城で暇を見つけては、あの森へ出かけている。
それも全ては、あいつの―――あの少年のせいだった。



この一ヶ月で、いくつかわかったことがある。
少年の名が、'イオ'であること。
イオは、動物が大好きで、動物達もイオにはすぐなつくということ。
城ではほとんど誰にもなつかなかったクロイツがなついているほどである。
いつも明るい表情であること。
右手には、手袋の下に包帯を巻いていること。
その右手にいきなり触れられるのを嫌がること。
そして・・・自分と同じくらい、いや、もしかすると自分よりも上の強さを持っていること。
実は、ルカが回復し、城へ戻ることになった時、イオに「城へ来い。」と言った。
命令のような拒否を許さないその言葉にイオは、少し驚いた顔をする。その時、ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ――――瞳が曇る。
そして、あきれたような笑顔を向けながら「いいよ。」と言った。その後に、「僕に勝てたらね。」とつけ加えて。
これで俺は堂々とこいつを連れて帰れる。そう思っていたのだが・・・
結果は――――惨敗。
体調が万全でなかったとはいえ、イオの強さは本物だった。
これでは無理やりにつれて帰ることもできない。
仕方がないので、今はこうやって自分が森へ足を運んでいる。
そして、勝負を挑み、いまだにイオを城へは連れて帰れないでいた。


こうして自分がわざわざ足を運ぶことに、なぜか不快感はなかった。
あの、イオという少年にどんどんひきつけられる。
最初はあの瞳だった。今ではあいつの全てが気になっていた。
何故こんなところにいるのか。
右手には何が隠されているのか。
その強さの秘密も気になる。
そして、あの瞳。瞳の深い奥底に潜むものの正体は何なのか。
知りたいことはいくらでも増えていった。
ところが、イオはルカがいくら問い掛けても、まともに答えることはなかった。
いつも、あいまいな笑顔でかわされる。
口調は、初めの頃に普通にするように言ったが、いつでも一線を引いているような態度は変わらなかった。
全然答えようとしないイオにいらだったこともあったが、自分で探るという事を見つけ、今はそれを楽しんでいる。



イオの近くにいて、動物とふれあう事が増えた。
なぜなら、イオは昼間必ずと言っていいほど、動物達と戯れているのだ。
イオの周りには不思議なくらい動物が集まってくる。
中にはモンスターの類まで出てくるときもあった。
初めてウサギの群れに囲まれているイオを見たときはまさか襲われているのではないかと思った。
一匹のウサギをひざに乗せながら笑う姿はいつものような決まりきった笑顔ではなくて・・・
あれがイオの本当の笑顔なのだと思った。
そのイオの顔に、ルカは一瞬見惚れてしまったようで、クロイツの鳴き声で、はっと我に返る。
だが、その笑顔は自分に向けられたものではない、そして向けられたこともない。その事実が、苛立ちを誘った。
すると、イオはこちらに向き直り、
「だめだよルカ。そんなに殺気だってたら、ウサギは恐がっちゃうよ。」
そう言って、ルカの隣の座る。
それでもぶすっとしたままのルカに苦笑いしながら、ルカの手に一匹のウサギを乗せた。
「!」
ウサギは嫌がってルカの手から逃れようとした。
「お、おい、嫌がってるじゃないか。」
「違うよ、これはルカが恐がらせているだけ。」
もう、とため息をついて、ルカに落とされたウサギにごめんねとあやまっている。
「俺はもういい。」
そう言ったのだが、イオの強引さに負け、特訓したおかげで、ウサギを持っても恐がらない様にまでなった。
ウサギが、初めて自分の手に擦り寄ったとき、とても不思議な気分になった。
だが、悪いものではない。
そう思ってふっと笑った。
その顔を見たイオの頬が、少し赤みを帯びる。
(な、何で僕の顔が熱くなるの?)
何故こんなことになったのかわからなくて、今の顔を見られたくなくて、そっと視線をそらせた。
残念ながら、ルカはウサギとのコミュニケーションに夢中になっていて気がついていなかった・・・





今日も森へ出かけた皇子を見送ったクルガンは、最近のルカについて考えをめぐらせていた。
そこへシードがやってくる。
「どうしたんだよ。なんか神妙な顔してるぜ?」
「ん?あぁ、お前はルカ様について何か感じたことはないのか?」
「そうだなぁ。ルカ様が、あんなどこにでもいそうな猫を飼うと言い出したときはさすがにびっくりしたぜ。」
「他には?それだけか?」
「?なんか他にあんのかよ?」
「・・・ルカ様は、少し穏やかになられた気がする。そもそも、猫を飼うなど、あのルカ様からは考えられないのだからな。」
「あぁ、そういやそうだな。・・・ああやってどこかへ頻繁に出かけられるようになってからか。」
その言葉にうなずき、クルガンはぼそりと呟いた。
「このままよい方向に進んでくれるとよいが・・・」
その声はシードには聞こえなかった。





今日もイオはウサギ達と一緒に遊んでいた。
そこへルカがやって来る。
「やあ。リトは元気?」
「あぁ、やんちゃすぎて手に余るがな。」
リトは、今ルカに飼われている猫の名だ。実はこの猫、イオからルカに頼んだものである。
今のルカは、弱い動物をむやみに殺したりしない、そう信頼して、ルカに頼んだ。
ルカも、その信頼が嬉しかったのもあって引き受けたのだ。


ここは、世の中から引き離された空間。
その中で、二人の距離は、少しずつ、少しずつ、近づいていく―――――。





to be...                          1←   →3
                                

ルカ様、通い婚?
一応、二人が信頼関係築けたとこまでを書いたつもりなのですが、理解をされてるんでしょうか?
絶対わかんないですよねぇ・・・しくしく。
一応、次には事件が起こる予定です。
大変です。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送