永遠の中の一瞬(1)










――――全てを憎んでいた。
この世のもの全て、自分にとって不必要だった。





ある晴れた日だった。ルカは、供もつけず一人で森へきていた。
皇太子であるルカがどこかへ出かけるとなれば本来お供がつくのは当たり前である。
事実、誰かを連れて行くことをすすめられていた。しかし、ルカは絶対に供をつけない。
'お供'とは主人を守るためのものである。そんなものが必要なほどルカは弱くなかったし、命が惜しいとも思っていなかった。
何よりルカは人間が嫌いだった。憎んでいると言った方が良いだろうか。
全ての人間が汚いものに思えてしょうがない。だから、ルカは無意味ともいえる殺戮を繰り返す。
―――そして、ふと、自分もその一人であることを思い出す。そんな自分が嫌でたまらなくなる。
そんなことを考えてしまったとき、ルカは何かで忘れることにしている。


森へ来たのは気晴らしのため。何か目的があったわけではない。いや、強いて言うなら'忘れる'ためか。
どんどん森の奥へ入っていく。辺りには馬の音が聞こえるのみ。
途中、何度かモンスターに遭遇した。といってもルカの敵ではない。ルカが通った後にはモンスターの残骸が転がっていた。
しばらく自分の乗る馬'クロイツ'とともに進むと、急に道が険しくなった。おそらくはほとんど誰も行かないところなのだろう。
だがそこでわざわざ引きかえすルカではない。無理やりクロイツと進んでいった。
――――その向こうでルカの全てを変える出来事が待っていることを。ルカはまだ知らない・・・




無理やり進んだはいいが、やはり来るのではなかったとすぐ後悔させられるはめになった。
どんどん道が険しくなっていく。切り開いて行くのはいいが、クロイツにやはり負担がかかってしまったらしい。
とうとうクロイツの方が音をあげた。
「ちぃっ、だらしないぞ、クロイツ!貴様、それでも俺の馬か!?」
叫んでみるが所詮馬。しゃべれない。それにただ乗っている自分より実際歩いているクロイツの方が疲れるのは当たり前だ。
クロイツをほって奥へ進むわけにもいかず、結局戻ることに決め、クロイツを元来た方に向かせる。
 と、そのとき。  ぐしゃっと何かをつぶす音がした。
ルカが覗いてみると、クロイツの足が虫の巣の一部のようなものを踏みつけている。
何匹かは押しつぶされていた。
その虫を見てルカはまずいと思った。この種類は確か猛毒をもっていたはず。巣をつぶされて怒った虫は当然攻撃してくるだろう。
いくらルカが強いといっても、虫の大群相手にかなう筈がない。
早速大群が押し寄せてきた。今はとにかく逃げるしかない。
ルカはクロイツにまたがり走らせようとした。が、歩くことすら困難なこの場所を走ることなどできるわけがなく・・・大群に囲まれた。
ヒヒィーーーン!!
大量の虫に驚いたのだろう。突然クロイツが暴れ出しルカは振り落とされる。
「うぉっ!?」
うまく体勢を変え、地面には落ちずにすんだ。しかしクロイツの興奮が全く冷めない。前足を上げ雄叫びを上げたかと思うと、さっきは通れなかったはずの道を一目散に逃げていった。
一方ルカは剣で虫を振り払いながら何とか切り抜ける方法を考えていた。
しかしこちらは一人。今日はあいにくここから逃げ出せそうな道具も持っていなかった。頼りになりそうな紋章も身につけていない。
体の大部分は甲冑に覆われているが、さすがに顔の辺りは素肌である。
しばらく虫相手に奮闘していたが、だんだん集中が途切れてくる。当たり前だ。もう一時間以上は同じ事を続けているのだから。
急に、チクッと痛みが首筋にはしる。と同時に視界がぶれた。どうやら刺されたらしい。手足に力が入らなくなる。立っていることができず、ルカはその場に倒れた。
毒のせいだろう。朦朧としていく意識の中でルカはぼんやり考えていた。
(体が動かん。何も感じない・・これが'死'の感覚か。ククク、狂皇子と恐れられる俺が、まさかこんなところで死ぬことになるとはな・・・まあいい。人間に殺されるよりはましだ。それに・・この世に・・・未練・・・など・・・な・・・・い)

ふと、馬の、クロイツの鳴き声が聞こえたような気がした。かすかに開いていた目に人間のような影が映る。
(何・・だ・・・?)
そこでルカの意識は途切れた――――




それからどれほどの時間が経ったのだろう。ルカの目が開かれる。
目の前に見たことのない天井が広がっている。古い木造のそれは、明らかにここが天国ではないことを物語っていた。
(ここは一体・・・?しかし俺は死んだはずではないのか?)
どうやらここは小屋のようだ。そして自分は今ベッドに寝かされている。着ていたはずの甲冑も今は着ていない。
とにかくここが一体どこなのか気になった。自分はなぜ生きているのか、それも知りたかった。
そのとき、窓のほうから何か話し声のようなものが聞こえた。とにかくそこへ行ってみよう。
ためしに体を動かしてみる。体全体のけだるさはまだ残るものの、何とか歩けそうだ。
ゆっくりと、周りの壁に手をつきながら、ルカは声のするほうへ進んでいく。

木でできた扉を開けると―――そこにはクロイツがいた。
クロイツは確かあの時逃げていったはず…なぜこんなところにいる?「クロイツ・・・」と声をかけた、そのときだ。
「目が覚めたんですね。良かった。」
クロイツの後ろから、突然声が聞こえた。そんなところに人がいたことに全く気づかなかったルカは内心驚く。そして叫んだ。
「誰だっ!?」
すると、声の主が姿を現わす。刹那、ルカの目は声の主に釘付けになった。
赤い服をまとった少年。頭に緑のバンダナを巻いている。見事に整った顔は少女のそれを思わせるが、服装から察すると少年のようである。14,5歳といったところか。
何よりその少年の瞳が目についた。一見優しそうに見える瞳の奥にそれとは違う何かが潜んでいる。少し自分とも似ている気がした。
少年はルカの問いには答えず、ルカを見つめている。しょうがないので質問を変えた。
「俺をここへ連れてきたのはお前か?なぜ助けた?」
「あなたをここへ連れてきたのは僕です。この馬が僕の所へ来て助けを求めました。馬が導く所へ行くと、あなたが虫にやられそうになっていた。それを助けただけのことです。」
「クロイツが助けを求めただと!?バカな。馬が助けを求めていたなどとなぜわかる?」
「目を見ていればわかりますよ。」
そんなことを言いつつ、少年はクロイツの方を向き、そうか、君、クロイツっていうんだね。などと話かけている。
会話をしながら、ルカは違和感を感じていた。この少年は自分を恐れることなく普通に接している。きっとこの少年は自分がルカ・ブライトであることを知らないのだ。そうでなければおかしい。この俺を狂皇子と知りながら、普通に接するものなどいないのだから・・・正体をばらせば、きっとこの少年も他の者と同じように恐怖を抱くだろう。今の笑顔が一気に凍りつくのを見てやろうと思った。そして口を開きかけたが、少年の言葉に遮られる。
「ところで、体の具合は如何ですか?ルカ・・・ブライト。」
その言葉にルカの方が凍り付いてしまった。この少年は知っている。自分が何者であるかを。その上でこのように普通に話し掛けて来るというのか?
「!貴様、何故俺の名前を…」
「あの甲冑を見ればわかります。」そしてやはり普通に話してくる。
「そうか・・・ふは、ふはははははは!」
そんな人間が存在するとは。その事実が面白すぎてルカは思わず笑ってしまった。一方笑われた方は何がなんだかわからないといった表情で、首をかしげた。
今までうんざりしながら見てきた生き物と全く違う人間・・・興味がわいた。もっと知りたいと思った。



それが、ルカとイオとの出会いだった。全てがここから始まった・・・






to be...                     →2
                          

もともと私が小説を書きたいと思ったきっかけになったネタなんです、これ・・・
自分の中にあるルカ坊像をそのまま形にしたものなんですが、ちゃんと最後までいけるのか、ちょっと不安なタナキでございます。
とりあえずお付き合いくだされば幸いです。

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