ある夜の不幸と幸せ










ここは、シュリ率いる同盟軍の本拠地、ラグナ城。

昨日からここに滞在しているトランの英雄は、解放軍の時からの付き合いであるルックと一緒にいた。

他愛のない会話をしていたわけだが、そこへシーナがやってきた。

ルックはイオとの時間を邪魔されたせいで不機嫌だったが、シーナはお構いなしにしゃべっている。
と、まあよくあるような光景だった。





「そういえば、お前って酒飲めるのか?」
それは、シーナの声。
いつからか酒の話になっていた。
どこの酒が美味いだの、この間ビクトールが酒場でこんな事をやらかしただのと、そんな話をしていたのだが・・・
「え・・・」
と、イオは何?といったような表情をした。
「だーかーら、酒だよ、酒!よく飲んだりするのかって聞いてんの!」
う〜ん、とちょっと考えるようなしぐさをしてからイオが答える。
「ほとんど飲まないから分からないけど、僕はきっとお酒は全然だめだよ。」
「あんまり飲まないのか?」
「う〜ん、そうだなぁ・・・」
「んじゃあ、今夜にでも一緒にのみに行こうぜ。」
とシーナが言った瞬間に、イオの隣にいたルックが口をはさむ。
「だめに決まってるじゃないか。イオ、君にも言っただろ?僕の許可なしで飲んだらだめだって。」
「何でだよ?いいじゃねえか、一回ぐらい。」
「だめなんだよ。しつこいな。」
聞く耳を持たないルックの言葉に、それでも納得のいかないシーナはイオに、直接交渉をしようとした。

が。

逃げられてしまった。



「ちぇ〜、酒に酔うイオを見たかったのになぁ。」
と残念そうに呟いた。





一方こちらは逃げたルックとイオ。
とりあえず一息ついた二人だったが、ルックはまだまだ機嫌が直らなそうだ。
(全く、下心を持ってるの、丸分かりだよ。ろくなこと考えないんだから。)
シーナに限らず、イオに好意をもっている者は、この城でも数え切れないほどいる。
青い運のない男や、この城の主、それからまじめそうな青騎士や、その相棒etc・・・
一人ずつ挙げるのもバカらしい。
それだけの人間の好意に気づかないイオもイオだが・・・
そう、イオは全く気づいていない。
そのため、警戒心が、全くと言っていい程なく、いつもルックはひやひやしているのだ。
こんなふうにルックがいつも苦労していることも、イオは分かっていないだろう。

今だって、イオは

「何も、テレポートで逃げなくてもいいのに。」
と、少々すねたような事を言っている。

全く。


何にも分かってないんだから。
はぁ〜、とため息を一つついて。
「とにかく、絶対僕以外の人と、酒を飲んじゃだめだからね。君はすぐ酔っちゃうし、酔ってる君はすごいんだから。」
そう言われると、イオも頷かないわけにはいかない。
酔っている自分は、そんなにもすごいのか。
それを人前で見せるのは自分も嫌だ。
もちろんルックは別であるが。





今日は一人で城をぶらぶらするイオの姿があった。
なぜなら、ルックは今日急ぎの用事で、レックナート様の所に行っているからだ。
そこへ、シーナがやって来る。
「なあイオ。酒場、行こうぜ。」
「だ、だめだよ。この間ルックにも釘刺されちゃったし・・・」
「そっかぁ。」
と、ちょっと残念そうな顔をするシーナ。
それを見て、イオの良心がいたむ。
「ごめんね」と謝るイオは可愛かった。
そりゃあもう、シーナが惚れ直すぐらいに。
「あ、そうだ、このチョコ、いらないか?さっきもらったんだけど、美味かったぜ。」
懐をごそごそやって取り出したのは、かわいらしい紙に包まれたチョコ。
さっきの事もあって断るのも悪いし、あまり甘いものが好きでない自分の好みを知った上で進めてくれるのだから、きっとおいしいのだろう。
いただくよ。
とそれを受け取って、口に入れる。
シーナは、心の中で、よしっと、ガッツポーズをした。
もちろん、これは酒入りのチョコ。
なんたって今日はあのルックがいないのだ。
このチャンスは物にしなければ、男がすたる。


そ〜っとイオの顔色をうかがってみると・・・

ほんのちょっとの酒しか入っていないのに、もう目元がうっすら赤みを帯びている。
瞳は少し潤んでいて、ひどく扇情的だった。
(おいおい、たったこんだけの量で、こんなになるのかよ。もっと飲ませたら、どうなるんだ?)
内心嬉しい悲鳴をあげながら、シーナはさりげなくイオの肩に手を置き、酒場へ誘導した。





――――1時間後。


酒場では、世にも珍しい英雄の酔いつぶれる姿に、たくさんの人でにぎわっていた。
酒に酔ったイオは、そのしぐさや言葉などが少し幼くて、それがとてもかわいらしい。
瞳を潤ませ、にこりと笑われると、どうみても男心を煽っているようにしか見えない。
イオ〜!と叫びながら抱きしめると、
「シ〜ナ〜。苦しいよぉ〜。」
とけらけら笑いながら、しかし、全然苦しそうじゃない。
シーナが幸せをかみしめていると、いきなり誰かにケリを入れられた。
「な〜に、イオを独り占めしてんだよ!」
と言ってきたのは、ちゃっかりイオの隣を陣取っていたフリックだ。
「えへへ〜、ふりっくぅ〜v」
そう言って、イオがフリックに擦り寄ったものだからたまらない。
フリックは顔を真っ赤にしたまま、凍り付いてしまった。
その隙に、今度はシュリが横取りする。
そんなわけで、しばらくは'イオ争奪戦'なるものが繰り広げられた。
いろいろな男同士が取り合いをする中、要領よくイオの側にシーナがやってきた。
そしてささやくように、イオに耳打ちする。
それを聞いて、にこぉ〜と笑うと、シーナの頬にチュッとキスをした。
キスをされたシーナは、顔のしまりがなくなってしまってだらしない顔だ。
「なぁなぁ、イオ〜。お前、ルックなんかやめて、俺にしとけよぉ。」


といった瞬間。



シーナの後ろの辺りから、すさまじい旋風が吹き荒れる。


「・・・僕が、何だって・・?」

そこにいるのは、もちろんルック。
その顔は少し笑っている。
しかし、目がちっとも笑ってない。

シーナは知っていた。

この顔をしたルックが一番恐い、ということを。
堂々としたくっても、顔が勝手に引きつってしまう。
「ル・・ルック・・今帰ったのか?は、早かったんだな。」
何とかしゃべるものの、ビビッているのがバレバレである。
「・・・へぇ、この時間に帰るのが早いのかい?ところで、何でここにイオがいるわけ?」
ルックが攻撃態勢に入ったのは、一目瞭然で。
シーナは内心、(ほんとに俺死ぬかも。)などと思った。
周りのものもみんな同感だった。
そうならなかったのは、イオの言動のおかげである。


「あぁ〜!!ルックだぁvv〜〜〜ルックぅvv〜〜vv」

と、ふらふら歩きルックに抱きつくと、いきなりキスをかました。
周りが驚くのは当然の事ながら、された本人である、ルックもいきなりの出来事に動揺する。
しかもイオは、まだルックにしがみついたままだ。
一瞬にして、その場の空気が凍り付いてしまったわけだが、ここでルックはある事を思いついた。
抱きついたままのイオに、今度はルックからキスをする。
しかも、ディープなやつ。
「ん・・ふ・・ふぁ・あ・・んん・・・」
思い切り濃厚なキスをされて、イオは力が抜けてしまった。
そのイオを横抱きにしながら。
「言っとくけど、イオは僕の物だからね。手を出したら、殺すよ?」
と、勝ち誇った笑いを浮かべながら言った。
すると、イオも、
「そうなのぉ、僕、ルックのものなのぉ。」
などと笑いながらいう。

その場にいた、イオに好意をもっていた者は・・・再起不能。
固まってしまった者や、うそだぁーーー!!!と叫ぶ者、さまざまな反応で、酒場は大パニックになった。
仕掛けた本人達は、涼しい顔をしている。

そして、イオが、瞳を潤ませて。

赤みを帯びた顔で。

腕を首に絡めて。

もじもじしながら。

「るっくぅ・・・」

と言うと。


「分かってるよ。」

と言う。

次の瞬間二人の姿はなかった・・・



二人がどこへ行ったのかは――――愚問だろう(笑)





この一件で、自分のライバルがかなり減ると思っていたルックだったが、若干余計に火をつけてしまった者もいたようである。
イオをとられる心配などした事はないが、気に入らないのも確かなので。
事の元凶であるシーナに八つ当たりをしたそうだ・・・


合掌。




          end

ちょっと、いつもとノリが違うはずなのですが・・・
これは、書いてて楽しかったですなぁ。
ええ、とても(笑)
執筆中思ったのは、やはり、ルック様最強だなぁ、です。
坊ちゃんって、どっちかっていうと、お酒強そうなイメージなんですけどね。
もしも弱かったらこんな感じかなぁ、ていうのがあって、それが今回の物語を書くきっかけになったわけです。
たまに、こういうバカっぽいのを書くのはいいですね。
いい息抜きにもなるし。
次は、酒に強いバージョンで書こうかしら(また無謀な事を・・・)

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