Wankelmut










ある日のラグナ城。

青雷のフリックと名高い彼は、広場を歩いていた。
すると、前方から軍主が5人のパーティを連れてやってくる。
「あ、フリックさんだ。」
気づいたシュリが声をかける。
「よお、今からどこかに出かけるのか?」
今は特に偵察の必要もなかったはずだ。
レベルを上げるためか、それとも私用か。
「はい!グレッグミンスターに!」
満面の笑顔で答えたシュリに、ナナミはうんうんとうなづいている。
その後ろで美少年組が苦笑したり、げんなりしたり、ため息をついていた。
フリックも苦笑しながら答える。
「はあ、またイオを連れてくるのか。」
言いながら、この城に長期滞在をせず、いつも帰ってしまう自身の恋人を思い浮かべた。

イオ・マクドール。

先の解放戦争で解放軍のリーダーとして皆を率い、今では英雄としてあがめられている人物。
今自分たちの軍主は、彼にえらくご執心なのである。
「はい!」
何度も帰ってしまうにもかかわらず、その都度誘いに行く。
まあ、フリックとしては自身の恋人に会えるのだから文句などないが。
「早く帰ってこいよ。」
一応保護者的なことを言って見送った。
うまく行けば明日にはイオに会えるだろうか。
少し楽しみなフリックであった。

その後、どんなことが待ち受けているかなど、全く知らずに。





次の日。
あいつらはまだ帰ってきていないのか?と思いながら訓練に励む。
ここの所忙しかったので、なかなかイオと会う機会がなかった。
城にイオが来なかったわけではないのだが、その時フリックが城にいなかったりしたのだ。
いつからあっていなかっただろうか。
少し緊張してしまう。


そんなこんなで、夕刻へと近づいた頃。

フリックの言うあいつらが帰ってきた。
きっと場内は英雄殿を歓迎してにぎわっていることだろう。
どうやってイオと2人きりになろうか。
なんてことを考えながら広場に入る。
が、予想に反してそこは静かであった。
昨日見送ったメンバーはいるのだが、イオの姿は見当たらない。
頭に?マークを飛ばしながら彼らに近づく。


「・・・フリックさぁん・・」
今にも泣きそうな顔をするシュリ。
「な、何だ?何かあったのか?」
「イオさん・・・来てくれなかったの・・」
答えたのはナナミ。
こちらも、とてもつまらなそうな顔である。
「へえ、珍しいこともあるんだな。どうして?」
イオがシュリのお迎えを断るなんて、ほとんどない。
具合でも悪いのだろうか?
「そ、それが・・・」
言ったナナミの瞳が斜めを向いた。
「なんだよ。」
「えぇっと・・・」
シュリも言葉を濁した。
なかなか理由を言わない二人に焦れる。
と。

「今、目を離せない子がいて、とても忙しいんだってさ。イオ。」

口を開いたのはルックだった。
シュリやナナミがムンクの叫びのような顔をする中。
「・・・は?」
フリックは自身の耳を疑った。
「えーと、すまんルック。お前の言ってることはよくわからんが・・・」
脂汗を掻いているフリックを、冷ややかな目で一瞥すると、ルックは身を翻す。
「どうもこうも、言ったとおりだよ。」


ある子が可愛くて可愛くて、仕方ないそうだ。
その子がいるからこれないと。

‘捨てられたんじゃないの?君。’

小さめの声が、しかしはっきりとフリックには聞こえた。
「じゃあね。」
言うだけ言って、ルックは去っていった。
シュリがそろりとフリックをふりむく。
「・・・あちゃー・・・」
そこには石化したフリックがいたそうだ。





イ、イオが浮気!?

そんな・・・いや、しかし・・・
フリックは今、自分の故郷へと向かっている。
あの後、軍主から少しの暇をもらったのだ。
快くとまでは行かなかったが、あっさりと許可が出た。
実はこの背景に、フリックの落胆振りがあまりにひどかったから可哀相に思って、という同情があるのだが、それはまあ、ほっておこう。
バナーの村を通り、バルカスに会って、トラン共和国の首都へ入る。
そして、一目散にイオの屋敷へ駆け出すのであった。





「あれ?フリックじゃないか。」
出てきたのは本人。
とても意外だったのか、少し驚いたような顔をして彼が出迎えてくれた。
「イオ!」
中に入りなよと促したイオの腕をつかむ。
「・・・フリック?」
「お前、どんなやつと一緒にいるんだ?俺よりも・・・そっちの方がいいのか?」
ひどく緊張した。
もしかしたら、自分たちが別れることになるかもしれないから。
彼を手放すことになるかもしれないから。
手に汗を握って、ようやく紡いだ言葉。
・・・のはずだったのに。
「・・・・・・プッ」
しばらくの沈黙の後、返ってきたのは堪えられなかったイオの笑い声。
「おい、笑い事じゃないだろう。」
この笑いが何を意味するのかわからなくて、そしてバカにされたような気がして、低い声を出した。
「あははは、ごめん。でもフリックが面白いこと言うから・・・」
まだ笑いは止まらない。
その姿にひとかけらの緊張も消えてしまった。





「はい、この子が僕の浮気相手。」


そういって連れて来たのは、可愛らしい子犬だった。

「・・・・・・これ?」
「そう、これ。」
「・・じゃ、目が離せないってのは・・・」
「まだ赤ん坊なんだ。ほおっておけるわけないじゃないか。」
ねえ、とイオは子犬に同意を求めた。
はあ〜〜っと、今出る限りのため息をついて、フリックはその場にしゃがみこんだ。
「なんだよ・・・もう、俺・・・バカみたいじゃないか・・・」
その姿が再びイオの笑いを誘うのだった。





「くそっ、ルックのやつめ。」
紅茶を手に取りながら、今いない彼に毒気づいた。
イオに話を聞いてみると、ルックにはちゃんと事情を話したらしいのだ。
生まれたての子犬がいるから、今回はどうしてもいけないと。
それを、ルックはシュリたちにかいつまんでしか説明しなかったらしい。
結局ルックに踊らされたということか。
正直、とても悔しいものはあったが、どうせ彼に言ったところでまた嫌がらせを受けるに決まっている。
「でも本当にビックリしたよ。」
先ほどのフリックを思い出し、またイオは笑った。
「すごく思いつめた顔してたから、何かと思ったら・・・」
「うるせー。」
「でもまあ。」


‘そういうまっすぐなところが、好きなんだけどね’

フリックに聞こえるぎりぎりの声で呟く。
思い切り反応した今年28になる男は、危うく紅茶を取り落とすところだった。
その顔は、真っ赤に染まっていたらしい。





約一ヵ月後。
トランの英雄を引き連れたシュリ一行がラグナ城へ戻ってきた。
シュリの相手をしつつ、ルックと話しながら場内へ入る。
と。

「フリックさぁ〜〜んvv」

大声で叫びながら走り回る女の子と。
必死に逃げ回るフリックの姿があった。
「お、イオ!久しぶりだな。」
息の荒いままに挨拶を交わす。
「うん・・・何してるの?」
「あの子と浮気中。」
横からルックが口を挟む。
「な、何言ってる・・・・また来た!じゃ!」
弁明もできずに走り去って行ったフリック。
ルックは隣をちらりと見た。
そこにいた人物は、確かに笑顔だったが、額に怒りマークがついていた。
これからの騒動のことを思い、くすりと笑いを漏らすルックだった。


その後、笑顔でフリックを無視するトランの英雄と。

ひたすら機嫌を取ろうと必死になっている元解放軍服リーダーの姿があった。


今日もいい天気だ。





end

リクは「坊ちゃんに浮気疑惑!」でした。
ものすごくお待たせしてすいません〜。
そして浮気相手犬でごめんなさい〜。
フリックさんが終始情けなくてごめんなさい(笑)
どうだろう、一応ギャグと紙一重のほのぼの目指したのだけど。
だめ?
とにかくちょっとでも気に入っていただければ嬉しいです。
5600hitどうもありがとうございました!




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