人騒がせなBirth Day










「ルカ!」


それはある朝早くのこと。

最近、軍議続きであまり寝るヒマのなかったルカは、せっかくの眠りを妨げられて気分を害した。
一瞬目を開く。
が、再び目を閉じて、眠る姿勢をとった。
「ルカってば!」
再び聞こえる声。
声の主は分かっている。
彼が何を思って今自分を起こそうとしているのかは知らないが、彼は自分が眠りたい事を承知しているはずである。
だが、声をかけるだけでなく、ゆさゆさと体を揺さぶる行為が何が何でも起こす気なのだと教える。
しばらくは無視を決め込んでいたルカであったが、相手は全然やめてくれない。
だんだんその動作がうっとうしいものに変わって。
ガバリと身を起こすと、思いきり怒鳴る。
「うるさい!俺は眠いんだ!眠らせろっ!!」
それだけ叫ぶと再びベッドに横になった。
いつもの彼なら、ここでルカの心情を汲み取ってくれるのだが・・・
布団に身を包みながら、後ろの気配をうかがった。
シーンとして、動く気配もない。
そして、ベッドから遠のいていく足音。
分かったのかと安心した瞬間。

だだだっと走る音が聞こえた。
しかもこっちに向かって。
何だ?とルカが認識する前に、いきなり腹の辺りに何かが落ちてきた。
かなりの勢いと共にだ。
ドスン!と音をたてたそれは、かなりの衝撃をルカに与えた。
「ぐはあっ!?」
何が起こったのかわからず、それでも腹にかかった衝撃は夢ではない。
思わず飛び起きると、腹の上には。

先程自分を起こしていた張本人がちょこんと載っている。
しかも、
「起きた?」
などと普通に聞いてくる。
極上の笑みを浮かべながらだ。
「貴様は・・・殺す気かっ!?」
ルカは睨み殺す勢いで彼を見るが、本人は平然と答える。
「やだなぁ。僕がルカを殺すわけないじゃない。それにあなたはこんなことで死なないよ。」
ああ言えばこう言うというのだろうか。
これ以上文句を言ってもさらりと流されるのがオチで、しかも彼が反省などするわけない。
さっさと諦めることにする。
「それで?」
「何?」
「一体なんなんだ?」
「何が?」
「何がって・・・お前、用があったから俺を起こしたんだろう?」
「え?別に何も。」
「〜〜〜!!!」
マイペースに答える彼を、今すぐ殺してやろうかという気分にさえなった。
何なんだこいつは!
新手の嫌がらせかっ!?
再び睨みつけるが、全く効果がないらしい。
本人は、ニコニコとあいかわらず笑顔だ。
ルカは、せめてものお返しに腹の上に載ったままだった彼を叩き落すと、布団を頭までかぶった。
くそっ!くそっ!!くそっ!!!
いいように遊ばれたことに腹が立つ。



頭まで布団をかぶってしまったルカを見て、怒らせた本人―――イオはくすくすと笑いをこぼす。
そして、
「ごめん、ごめん。ちゃんと用はあるよ。怒らないでよ、ルカったら。」
と、できるだけ優しい声をかける。
ただし、嬉しそうに輝く瞳と、くすくすと洩れる笑い声はそのままにして。





昼下がりの城下は、活気にあふれていた。
そこらじゅうに人がおり、店先では物売りが声を張り上げている。
子供らは鬼ごっこでもしているのだろうか、その辺を走り回っていた。
そんなにぎやかな通りを横切り、イオとルカは商店街の方へ向かう。
もちろんお忍びできているため、従者は1人もいない。
二人とも、全身をマントに包み、顔だけを出している状態である。
とは言ってもルカは一国の皇子である以上、そこら中の人間に、ちらちらと見られてはいるが。
「・・・貴様は城下に一体何の用なんだ?俺をわざわざたたき起こしてまで。」
明らかに不機嫌と分かる表情で、ルカは隣にいるイオを見下ろす。
彼が不機嫌なのは、朝たたき起こされたからというだけではない。
朝、ルカを起こした理由は、城下に降りるからついてきて欲しいからだと彼は言った。
もちろんルカは勝手に行って来い、といったのだが、彼はルカも来ないと意味がないという。
最終的に、脅されたというのに近い方法でついて行く事になった。
その方法というのは、命に関わるのでふせておくが。
「うーん、ちょっと・・・」
イオはさっきからこんな調子で、まともな答えを返すことはなかった。
ただ、色々な店を見ながら、時折ルカの顔を伺う。
ルカには、イオが何をしようとしているのか全く分からず、ヒマな時間だけが過ぎていった。





日もそろそろ暮れようかという頃、イオはある店をのぞいた。
そこは、ちょっとした装飾品を扱う店で、この辺りでは珍しい地方の物も置いてあった。
イオの故郷である、トランの品まである。
ぐるりと店の中を見回したイオが、あっと声をあげる。
後ろについていたルカが何だと聞こうと口を開いた。
が。

「ル、ルカ!ごめん、外に出てて!」
と言われたかと思うと、ぐいぐいドアに向かって押されだした。
「何をする!?一体なんなんだ!イオ!」
ルカは疑問を投げかけるが、イオが無言にルカを押し続けた。
結局何も答えてもらうことなく、ルカは店の外に出されてしまった。
訳のわからないままに付き合わされて、次は見るなと言う。
どういう事なんだ、これは!と、ルカの機嫌は最高に悪かった。
しばらくしてイオが出てくる。
「お待たせ〜。」
「全くだ!」
いささか怒りも含んだ声で、ルカが答える。
そのルカの様子に、ちょっと困った顔をしながらごめんと謝った。
「さあ、帰ろう。」
イオの手には、小さな袋が抱えられている。
どうやら目的は果たしたようだが、一体何をしようというのかが、ルカには理解できていない。
朝の言動の様子では、どうやら自分も関係しているようではあるが・・・
それが分からないから、余計に気分が悪いのだ。
城への帰り道、イオに問いただしたが、彼の口からそれと納得できるような答えは帰ってこなかった。
ただ「もうちょっとしたら。」とそれだけを伝えられる。





食事も済ませた夜。

ルカの自室で、ルカはワインを飲んでいた。
イオは今風呂に行っている。
今日は、よく分からないが、とても疲れた。
それでいて、とても不愉快な日だった。
半分やけ酒になっている気もしたが、それでもかまわなかった。
ぐいっとグラスを空にしたところで、ドアが小さな音を立てて開く。
入ってきたのはイオだった。
ルカは彼だということを確認すると、またワインを注いだ。
「ルカ。」
イオが囁く。
そっと近づいて。
同じソファの、ルカの隣に座る。
その手には、あの謎の袋。
風呂あがりのイオは、どことなく色っぽい感じがした。
頬が赤みを帯びており、目元は心なしか少し潤んでいる。
「ルカ・・・」
彼の唇がルカを呼ぶ。
ルカはワインを注いでいた手を止める。
「何だ?」
彼の方に向き直った。
その瞬間、イオの腕がルカの首に回される。
内心驚きを隠せないルカが、イオの背中に自分の腕を回そうとした時。
かちり、とルカの首の後ろで何かの音がした。
それと同時に、イオの体がルカから離れる。
イオの行動に驚きながら、自分の首に手をやる。

そこには黒いチョーカーがかかっていた。

先には青い光を放つ宝石でかたどられた羽がついている。

「うん。」
イオは心底嬉しそうに頷いた。
「イオ?」
「誕生日おめでとう、ルカ。」

・・・

そうか。
今日は俺の・・・

自分自身すっかり忘れていた。
自分にとって誕生日とは、別に嬉しいものでも何でもなかったため、今まで祝ったこともなかったが。
きっとイオはジルか誰かに聞いたのであろう。
それでこいつは何かをしようと考えたのか。
今日の出来事が思い出される。
そして行動の謎が、消えていく。
全ては自分を祝うためだったとはな。
くっと、ルカは笑いを漏らした。
それを満足の印と受け取って、イオは話し出した。
「これはね、トランの伝統の装飾品なんだ。自分の尊敬する人や・・・愛する人に送るものなんだよ。」
照れくさいのか、少し頬を染めての言葉。
「愛する人・・・」
「そう。じっとしててね。」
イオは宝石に手を伸ばし、自分の額の辺りまで持ってくる。
その後口元へ移動させた。
イオの唇が動く。

「我、イオ・マクドールは、神々に、このフルストーンに誓う。」

瞳を閉じ、呪文のように紡がれるそれを、ルカは静かに見つめた。

「我はこの者、ルカ・ブライトを生涯愛す。ただ、愛し続けることを、ここに誓う。我らに幸あらんことを・・・」

すっと、フルストーンに口付けた。
こうして施された一連の動きに、ルカは反応する事ができなかった。
ただ見つめることしか。
そして、宝石を手放したイオがルカを見て微笑む。
「これが昔からトランの人々に伝わる儀式。」
ルカは答えない。
「これで僕はルカのものだ。」
イオは、これ以上にないほどの優しい微笑を浮かべた。
しばらく、何もいわずにイオを見つめるルカ。
頭の中では、めまぐるしく今日の行動が思い出されていた。


イオが、今日あれだけ店を捜し歩いたのは・・・


イオの本当のプレゼントは・・・



イオ自身。



彼の気持ち。彼の心。―――彼の全て。


「確かに受け取った。」
ルカはにやりと笑っていう。
それを見て、イオもほっとしたようだった。
急にイオの体が揺れる。
それは、ルカがイオの体を引き寄せたから。
ルカの腕にすっぱり収まったイオの耳に、ルカの顔が近づく。
そして―――

‘――――――――’



耳元で囁かれた言葉。
心地よい、愛する人の声。
イオの頬が赤く染まり、そして嬉しそうに笑った。
そっと顔がイオの耳から離され、二人は見つめあった。
どちらともなく、顔を近づける。

二人の距離がなくなって・・・


交わされるキス―――

彼の首に腕を絡ませ、イオもルカの耳元へ唇を寄せる。
そして、今日一番言いたかった言葉を口にした。



――― Happy Birthday My Lover ―――





end

な、なんかオチがひどいですね(泣)
えっと、キリリクは「ルカ坊で誕生日ネタ」でした。
サブで、「坊が散々にルカ様振り回して最後はハッピーエンド」とありましたので、
思い切りルカ様を振り回してみました。
い、いかがでしょう?(ドキドキ)
一応頑張っては見たのですが、とんでもない代物ですね・・・(汗)
白羅さん、こんなものですが、受け取ってやってください。
あ、もちろん返品可ですぅ(汗)
100HITありがとうございました!

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送